鼓童ワン・アース・ツアー〜神秘』

 

1月29日、クイーン・エリザベス劇場で太鼓芸能集団 鼓童による『鼓童ワン・アース・ツアー~神秘』が上演された。巨大な大太鼓を全身全霊で打ち続ける姿。演劇的要素が加わった作品『神秘』は、従来のダイナミックな大太鼓の迫力とともに、場内に感動の嵐を呼び起こした。

 

蛇舞は神話に出てくる大蛇退治が題材。『霹靂(へきれき)』(撮影 岡本隆史)

 

暗闇の中で出会う神秘

 真っ暗闇の中、ぐるぐると渦を巻く大蛇。太鼓の響きとともに繰り広げられる蛇舞(じゃまい)で幕開けした『神秘』は、日本各地に伝わる神話や民族芸能に出てくる神社や森が舞台だ。

 暗闇の中で遭遇するものたち。そこには恐ろしさ、滑稽さ、かわいさもある。闇と光の交差する幻想的な空間でさまざまな太鼓の音に導かれ、神秘の世界へ引き込まれていく。

 

演劇的要素たっぷりのシーン『なまはげ』(撮影 岡本隆史)

 

芸術性あるステージ

 結成30周年を機に、坂東玉三郎氏を芸術監督として迎えた鼓童。坂東氏が新潟県佐渡島の鼓童村に通い始めて15年。この間、鼓童は従来の“太鼓打ち”から“舞台人”へと成長していった。

 20余年前のバンクーバー公演を観た人たちが覚えているのは、締め込み姿の男性が、張り詰めた空気の中で大太鼓を叩く後ろ姿。「『神秘』は北米の太鼓奏者にとって新しい刺激でした。従来の大太鼓のソロはありませんでしたが、演出、照明、舞台設定など、坂東玉三郎氏の天才的な芸術性を感じました。島根県石見神楽の蛇舞はまさに圧巻。ケローナで太鼓を叩いていた内田依利さんの活躍も、北米太鼓グループの誇りです」とジェイコブ・ダークセンさん(ビクトリア海鳴り太鼓創始者)。

 

中太鼓や手打ちシンバルなど、さまざまな音色で音楽性も豊かなアンコール(撮影 Miyuki N.)

 

平均年齢25歳

 今回の北米ツアーは全33公演。出演者15人の平均年齢は25歳と、若手パワーがみなぎっていた。締め込みの替わりにぴったりとしたパンツ姿。また『神秘』では多くの女性団員が活躍するのも特徴だ。荒ぶる「なまはげ」を静めようと、酒を差し出す女たち。そこにはコミカルで、演劇的要素たっぷりの動きがあった。

 唄あり演技ありのステージだが、クライマックスはやはり巨大な大太鼓。全身全霊で打ち続ける太鼓から、大きく芯のある音が場内に響き渡る。スタンディング・オベーション、カーテンコールが終わったあと、ひとつのドラマを観終えたような満足感と同時に、体の中では小刻みな太鼓のリズムがいつまでも続いていた。 

 

太鼓芸能集団 鼓童 http://www.kodo.or.jp/

 

   

(取材 ルイーズ阿久沢)

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