●日本らしさの指導は平野弥生さんが担当

稽古中の様子をのぞいてみた。亀に乗った浦島太郎が竜宮城に着く場面だ。布で波の動きを作りだしていた踊り子たちが、次にはその布を衣装のようにまとう。踊る姿は日本舞踊の趣である。細かな所作をヤヨイ・シアター・ムーブメント・ソサエティを率いるパフォーマーの平野弥生さんが模範を示して指導している。そして演出家のマイク・スタックさんのリラックスした指導のもと、スタッフはわきあいあいと稽古に取り組んでいた。週6日、1日8時間みっちりと練習に取り組み、彼らは本番に向かう。

 

●歌舞伎のテイストを入れて

演じるのは「桃太郎」「浦島太郎」「雪女」「花咲じいさん」の四つの物語。脚本家デービット・フルモトさんは、この昔話の英語劇に歌舞伎の要素を取り込んだ。「たとえば鬼が見得を切ったり、鬼や雪女に歌舞伎のようなせりふ回しをさせたりして、歌舞伎の色合いが入るようにしています」とスタックさん。舞台では物語に入る前に、太鼓の音の使い方や、立ち居振る舞いなど歌舞伎の特徴を説明する時間を設けている。こうした日本独特の文化を際立たせることで、子どもたちの舞台への関心と印象がぐっと高まりそうだ。

 

 

日本の昔話の魅力を伝えたいと演出家のマイク・スタックさん

 

●カナダの子どもたちに見せる工夫を

4つの作品の役を6人の役者が演じ分ける。その役者の中でただ一人の日本人である塙朋子(はなわ・ともこ)さんは「英語で展開される日本の昔話にこちらの子どもたちがどう反応するか楽しみ」と語る。日本の文化を知らない子どもたちを前提にしての劇。そのため、日本の子どもなら語らずともわかるものも、小道具の使い方やせりふで補っていくのだという。
大道具や衣装には担当者がリサーチを重ね、前述の平野さんのアドバイスを受けながら日本らしいものを再現していく。平野さんは、この舞台に関連した企画である歌舞伎ワークショップの講師も務める予定だ。

 

本舞台のなかで唯一の日本人役者の塙朋子さん

 

●子ども対象の舞台演出のプロが手がける

演出家のスタックさんは子どもへの演劇指導の経験も豊富。物語のもつ不思議さや驚き、時に怖さなどが、子どもたちにすっと伝わるよう、勘所をつかんで舞台に反映していくのが自身の役割と認識している。日本の昔話について「浦島太郎がなぜおじいさんに変わるのかなど、物語の教訓がはっきりしていないところがとてもいい。観る人それぞれに考えるチャンスを与えてくれる」と語るスタックさん。ゆったりとした演出姿勢は物語自体、役者自身から生まれる瞬間瞬間の素晴らしいクリエーションを信頼してのこと。 
カナダ人演出による日本の昔話。新しい感覚で演じられる舞台の幕が開けられるのはまもなくだ。

(取材 平野香利)

 

 

Wondrous Tales of Old Japan

  4月4日(金)〜20日(日)の金・土・日   
会場:The Waterfront Theatre  
1412 Cartwright Street, Vancouver, BC  
(グランビルアイランド、キッズマーケットの隣)  
7歳以上対象、公演時間60分
上映時間はウェブ参照  www.carouseltheatre.ca
電話 604-685-6217
大人29ドル、子ども(5〜17歳)15ドル  
(グループ割引、シーズンチケットあり)


歌舞伎キッズ・ワークショップ

  4月20日(日) 3時15分〜4時15分  
会場:Carousel Theatre for Young People  
1411 Cartwright Street, Vancouver, BC  
(ウォーターフロントシアター向かい)  
参加無料(年代問わず参加可能)

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