黒袴をつけた、バンクーバー祥門会代表・指導責任者の清田勝さん(中央)
入念な準備体操、流れるような体の動き
稽古前の柔軟体操の時間は15分から20分間と実に長い。体のあらゆる部分の関節や筋肉をやわらげるためのストレッチを入念に行う。ケガをしないよう柔軟な体の動きができるように準備をしてから稽古に入っていく。この準備体操だけでも健康維持には十分だろう。
稽古が始まっても静かな印象がする。受身で、畳をたたく音がパーンと響き、足の運びは、すべるようだ。そして円を描くような動きをする。まるで、ワルツを踊るような体の動きの中で、技をかけていく。
稽古は二人一組、争わない
あらかじめ、どんな技を使うかお互いに合意して、技をかける側と、かけられる側が同じ回数、交代しながら稽古をする。投げと受けをお互いに繰りかえすことを『練りあい』と呼ばれているが、お互いをもっと理解し合う…あうんの呼吸が通じ合うようになると言うことだろうか。そのなかで、技を磨いていく。人間を磨いていく。 合気道には試合がなく、稽古中でも無駄な争いをすることを厳しく戒められていて、力と力がぶつかるようなシーンは見当らない。投げる側にも投げられる側にも、無駄な力を感じない美しい姿勢が保たれていて、脱力した心地よさを感じた。
稽古は二人一組。交互に技をかけあう
「全人教育」でSTOP BULLYING!
合気道には、「全人教育」と言う理念がある。それは「知育」「気育」「体育」「徳育」「常識の涵養(かんよう)」という言葉で表現されている。6才〜12才までの子どもクラスでは、「自分がやられて嫌なことは、人にやらない」、「ケガをさせない、しない」、「イジメない、いじめられない」、「礼儀を重んじる」、「自信をもたせる」などの実践をしている。
子どもクラスでの逸話をバンクーバー祥門会代表・指導責任者の清田勝さんが紹介してくれた。
子どもクラスで、まさに手取り足取りで教える清田敬子さん
…ある日、「私にも手に負えない」という子どもをつれた母親が相談に来た。確かに腕白で、なかなかすなおには言うことを聞いてはくれなかった。稽古の間も一人、はずれてしまっていた。そこで、「君が教わったことを君より後輩の子に、教えなさい」と指示し、しばらく様子を見たところ、いつの間にか、新しい入門者のまとめ役的存在になっていた。頼られることで、自信を得たのだと思う。乱暴なところもすっかり影を潜めていた…という。道場に来れば、稽古の中で自分より強い人が何人もいて、いとも簡単に自分の乱暴な行為もはねのけられてしまう。それが自信と同時に、自分の弱さを客観的に知る機会を得ることになる。
人格形成に大切な礼儀を教える
どんな場合でも暴力は否定されなければならないが、現代はあまりにも人の「強さ、弱さ」を体感できる機会が減っている。同時に「怖さ、それを乗り越える勇気」や「やさしくすること、されること」を体感できにくくなっている。道場での稽古の中でしっかりとした指導のもと、体感していけば、必ず身に付いていくと実感した。
(取材 笹川 守)
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