2018年12月6日 第49号
青森に来た。深夜、トイレに行き、窓の外を見ると満月が雲の間に間に煌々と輝いていた。明日は本格的な冬の到来なのか。この北の地方は雪になるとの天気予報なので、深夜に恐る恐ると外を眺めた時の話であるが、まだ、雪もなく嵐の前の静けさなのであろうか?
旅の道中に読んでいた青森県出身の太宰治のお伽草子『浦島さん』を思い出すと雪の降る前の満月夜は、まさに竜宮城にいる浦島の世界のように思われた。
浦島を乗せた亀は言う。「その先人の道こそ冒険の道じゃありませんか?いや、冒険なんて下手な言葉を使うから何か血なまぐさくて不衛生な無頼漢みたいな感じがしてくるけども、信じる力とでも言い直したらどうでしょう。あの谷の向こう側にたしかに美しい花が咲いていると信じ得た人だけが、何の躊躇もなく藤蔓にすがって向こう側に渡ってゆきます。」
日本とは別の世界で生きてきた自分の世界も浦島太郎の世界なのであろう。
次男が日本の北へ行ってみたいと以前から言っていた。しかし、この晩秋の時期に北へ行くことに躊躇していたが、思い切って名古屋から新幹線を乗り継ぎ青森まで来た。朝の7時半に名古屋の実家を出て東京まで行き、そこで東北新幹線「はやぶさ」に乗り換えて、新青森駅に着いたのは15時25分であった。青森はすっかり冬の気配で、小雨がパラついていたが、初めての別世界に妙に興奮する感じがした。その満月夜はまさに浦島の世界のようでもある。
5時、すっかり日が落ちて、小雨パラつく夜の街に出て、ホタテをから揚げにしたホタテ定食を夕食に食べたが、とても美味であった。店に入ったのは5時ぐらいなので、店にはまだ客はなく、静かな少し古い感じの店の奥から少し背が高く品の良いおばさんがお茶を持ってきてくれた。
90年続いたという老舗の店は、あと継ぐ息子は家を出て、イタリア料理の勉強をして、イタリア料理のお店を出しているという。このあたりの商店街では後継者のことが問題だという新聞の記事が壁に貼ってあった。古いものと新しいもののコラボレーションが、今の日本の課題のようにも思えることがここにもあった。
その昔の乙姫さんが老舗の品のよいおばさんとなり、店を手伝っていて、その店の奥の厨房でおいしい料理を作っている老木のような男性は浦島の化身のようにも見えた。
翌日の朝はすっかり雪景色、東北本線青森駅の前でえりを立てて寒いなか、三内丸山遺跡行きのバス停へ行くとオーストラリアからきたという学生風の女子が二人待っていた。息子はひさしぶりの英語で楽しく会話は弾む。
新青森駅内のねぶた
棟方志功の版画
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