2018年6月14日 第24号
6月3日早朝から、老婆はサンフランシスコへ孫(13歳)の中学校卒業式のため行った。会場は晴天下、校舎と公園の間、広い道路をワンブロック閉鎖し、そこに数百の椅子が並べられ、中央に小さなステージがあり、その右端、歩道上に電子ピアノが置かれていた。椅子はその舞台を中心に向き合って並べてある。
8年生(卒業生)の家族用指定席に私達家族8人は座る。向き合うステージを挟んだ反対側座席は、前席5〜6列は子供用のかわいらしい色とりどりの小さな椅子が並び、その後は普通の椅子数十列、最後列は4〜5列、一段高くなっていた。その座席の並びに意味があることを老婆は後で知る。
いくら少子化と言っても、我娘の夫家族ほど孫のいない人達を知らない。親戚中で一人の孫、マヤちゃんが家族親戚からスポイルされるのでは?といつも心配している老婆なのだ。
ピアノの演奏と同時に、8年生の一人が道路中央右側の通路から盛装し歩いてきた。途中までくると拍手と歓声が上がる。そうして次々、全員が両側の観客の歓声を浴びながら中央まで進む。すると先ほどの子供席の1年生が、これまた一人ずつ8年生にひまわりの花を一輪手渡す。これは「サンフラワーセレモニー」と呼ぶそうだ。実はこの1年生が入学時、8年生からひまわりの花で歓迎されているのだ。花を受け取ると一段高くなった最後列の上段席に上がっていく。私は卒業式と言ったが、実は『Step Up & Graduation Ceremony』 と呼ぶ。ただの「卒業式」ではなく全校生の「ステップアップセレモニー」で、1年生は8年生を見送り2年生に、2年生は3年生となるのだ。その学年別に、前席から1年〜8年生までが順番に座っていたのだった。この学校の生徒、教師、職員、家族、友人皆で「ステップアップ」をお祝いするセレモニーに参加してみて初めて分かったいろいろだ。その式中、生徒同士、教師、職員たちそれぞれの関係がまるで家族のように見えた。校長先生は全生徒の名前を覚え、生徒たちと仲が良い。聞くところまた見たところ、この学校の生活は、全員が全員の皆の良いところを探し、さらにそれを伸ばそうとする、つまり学校が日常的に良いところ探しをする場所のようだと娘は言う。どうやら日本のような「モンスターペアレンツ」はいないようだ。
その数日前に「Reflection Ceremony」を8年生とその家族、教師たちが集まって教会の聖堂で行った。その会では各教師が自分が推薦する生徒をステージに呼び、その生徒が学校生活上で感じたことをそのままに話していく。本当に教師が生徒のすべてをよく見ていると感心した。37人全員、一人一人舞台上に上がり、各教師の心を込めたメッセージを聞く。話し手も、聞き手も涙となる。
また、競争心の強い生徒の一人が頼み、ステージから降りて、教師と2人で腕立てふせの競争をし、1点差で生徒が勝つことになった。これはこの式場で初めてあったことではなく、普段から普通にそんなことができる教師と生徒の『仲』なのだ。一人も落ちこぼれがいない、全員が「スター」として扱われ、自分も友人たちを「スター」と思って接する、とても明るい雰囲気の中、私の孫は3年間勉強することができた。
終わりに、数百人を前にマヤちゃんが大拍手の中スピーチをした。全教師とスタッフ、生徒の推薦で選ばれた「Holly Horton Award」。言ってみれば「人気投票(?)賞」を受賞したのだった。一人っ子のわがまま娘でないことが分かって、ほっとする老婆。彼女が学校から受け取った素晴らしい名前入りの賞を手に嬉しそうな父親。明日から7週間ニューヨークへ、バレエの特別練習に出発していく。「頑張ってね!マヤちゃん」
ふと、老婆は思った。人と接するとき伝わるのは「自分の覚悟」、人に見られているのは「自分の心」、そして、人の理解を得るのは「自分の生き方」。
許 澄子