2017年5月25日 第21号

 4月の末から子供たち(5歳と7歳)を連れて、3人で久々に実家のある姫路に帰省している。

 そして先週は妹に会いに、思い切って北海道に行った。旅行最後の日の夜は、バンクーバーでお世話になったお友達夫妻の札幌のご自宅にお邪魔した。おいしいお食事を囲んで10 年ぶりの再会を果たした後、別れを惜しみながら、大雨のなか、普段乗りなれていない車で妹の自宅へと向かった。私も妹も全く知らない地域に来たために、携帯の地図に頼りながら走行していたのだけど、こんなときに限って、妹の携帯の充電が切れてしまった。車にはナビもない。

 完全に道に迷ったのに気づいたのは、走行して30 分ほど経過したあとだった。

 このまま暗闇を、走り続けるわけにもいかないので、とりあえず近くのコンビニで道を聞こうとコンビニを探すが、コンビニどころか開いていそうな店さえない。外は暗く雨もガンガン降りだして「どうしよう…」と心細くなっていた矢先、ヘアサロンの光が見えた。

 サロンの前には大きなトラックが止まっていて、どうやらサロンの改装工事をしているようだった。雨に打たれながら、トラックとサロンの間を忙しそうに、大工さんたちが、せっせせっせと働いていた。道を訪ねるのに躊躇するタイミングだが、この機会を逃すわけにもいかない。おそるおそる声をかけてみた。

 雨のなか、その大工さんはいやな顔ひとつせず、親切に道を教えてくれた。

 そうしていると、また別の大工さんが出てきて「こっちのルートを使ったほうがいいよ」と、最初に説明を受けたルートはやめるよう助言してくれた。見る見るうちに、次から次へと大工さんたちが出てきてくれ、気がつけば、どのルートで行くべきかの熱烈な会議が始まった。「ここはだめ、あそこはだめ」と仕事を放って話すこと20分。

 結局、親方とみられる男性が「人に道を聞くより、携帯の地図に頼るのが一番。でも、その携帯が使えないってことは誰かが送っていくのが一番。おい、お前、この人を送って帰れ」と、大工さんの一人を指して言い出した。予想外の発言に私はびっくりした。往復すると2時間はかかる。

 私を誘導しろと言われた大工さんは、「じゃ、おれ、今日そのまま家に帰るけどいいの?」と言う。もちろん、親分は「帰れ!」と笑って言う。

 そうしていると、車の中で待っていた妹が走って出てきた。

 「携帯の充電ができたよ。これで地図が見える!」

 大工さんたちに丁重にお礼を言って、私たちは、その場を去った。

 見ず知らずの他人を助けるために、雨に打たれながらも親身になって道順を考えてくれた大工さんたち。そして、自分の労働力を惜しむことなく、自ら提供しようとした、寛大な親方。

 北海道最後の日は、こんなハプニングに見舞われたが、そのおかげで、私はすっかり北海道人が大好きになってしまった。

 


■小倉マコ プロフィール
カナダ在住ライター。新聞記者を始め、コミックエッセイ「姑は外国人」(角川書店)で原作も担当。 
ブログ: http://makoogura.blog.fc2.com 

 

 

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