2017年4月27日 第17号
家の近所にとびっきりおいしいマカロンのお店がある! ここはフランス系のカフェだけあって、店内は上品な大理石のカウンターに大理石のテーブルと椅子、そして店員はフランスの国旗を基調にしたシックなユニフォームをまとい、客が店に入るなり必ず「Bonjour」と挨拶をする。私が住んでいる町はオタワなのでやはりバイリンガルな客も多く、そのまま店員と客との間でフランス語での会話が続く。パリには行ったことはないんだけど、きっとこんな感じなんだろうなーと、ここに来るたび、ひとり勝手にパリに来た気分にひたってしまう。できるものなら毎日来たいくらいなんだけど、マカロンのカロリーとお値段とダブルで高いのでご褒美に来るくらいだ。
そして先日久々にお店に寄ってみた。珍しくオーナーのパティシエがキッチンから出てきて客と話していた。ふたりとも笑っていない。そして、客はそそくさとハンドバッグからマカロンを取り出して「このマカロンのなかに髪の毛が入っていてショックだった」と言った。確かに客としては食べるのを楽しみにしていた高級マカロンに、誰かの髪の毛が入っていたらショックだろう。わたしがオーナーならそこで謝って新しいマカロンを渡すと思うんだけど、ここのオーナーは「うちのキッチンは清潔で、スタッフは全員帽子をかぶっている! でも僕たちも人間だから何らかの形で間違いは犯すことはあるんですよね」と呆れた顔をして返答した。ふたりとも全く納得のいかない様子で、客は「ショックだった」と言うし、オーナーは「人間だから間違いは犯す」と、ふたりして同じことを何度も繰り返していた。結局、客のほうが折れて髪の毛の入ったマカロンをオーナーに渡し、店を後にした。
「ごめんなさい」。ただこの一言が、あのお客さんは聞きたかったんだと思うんだけどなー。そしたら会話もすんなり終わって、ふたりとも笑顔で一日過ごせたのに…。たとえ自分に非があっても、そして自分が間違っているということを自分のなかで認めてさえいても、この一言がなかなか言えない大人がいる。一体何を恐れているんだろう。私は、これが言えないことで失うもののほうが、もっとこわいと思うんだけどな。そしてこの日、ここのオーナーに対する好感度がちょっと下がってしまったのは言うまでもない。
■小倉マコ プロフィール
カナダ在住ライター。新聞記者を始め、コミックエッセイ「姑は外国人」(角川書店)で原作も担当。
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