2017年8月17日 第33号

 私の勤務するLondon Drugsは、ブリティッシュコロンビア州からマニトバ州まで、80以上の店舗があり、青を基調としたロゴや看板、カスタマーサービスを重視したブランドイメージにより、幸いにも多くの方々にご利用頂いています。

 そのLondon Drugsが、薬局でマリファナを販売!?と誰もが耳を疑ったのは、2016年の2月のことでした。「Shoppers Drug MartやLondon Drugsといった大手薬局チェーンが、マリファナの販売に興味を示している」というニュースが流れたのです。現場で仕事をしている私のような一介の薬剤師にとって、このニュースは寝耳に水でした。しかし、マリファナについて勉強するに連れて新たなことが分かってきました。

 カナダでは2001年から医療用大麻の使用が認められ、現在は「Access to Cannabis for Medical Purposes Regulations (ACMPR)」により、認可を受けた栽培業者(Licensed Producer;LP)(資料1)が、合法的にマリファナを栽培することができます。医師が必要と認めた患者さんは、書類手続きをすることで、LPからマリファナを購入することができます。

 2016年のアメリカの研究者の報告(資料2)によれば、非合法的に栽培されたマリファナのテトラヒドロカンナビノール(THC:マリファナの精神作用を起こす主成分)の含有濃度は、1995年には4%であったのに対し、2014年には12%でした。THCの濃度が約20年の間に3倍の増加を示したことは、医療用マリファナの品質管理の重要性を示唆しています。

 嗜好品のマリファナの中で最もよく用いられるのは、花穂や葉を乾燥させた大麻加工品で、これは医療目的でも用いられます。マリファナをパイプに詰め、燃焼させて成分を吸引すると、3〜10分と非常に短時間で作用が現れ、30〜90分で血中濃度が最大となります。効果が現れるまでの速さは、薬としては非常に魅力的です。また、血中から消失するには2〜3時間程度かかります。内服で摂取された場合は30〜90分で効果が現れ、2〜3時間で血中濃度が最大となり、4〜12時間で血中から消失します。

 たとえ医療用と名を冠しても、マリファナには副作用があります。主にTHCの乱用により酩酊感や時間感覚の変化のような知覚の変化、イライラなどの情緒不安定、集中力低下や記憶障害といった思考の変化が見られます。また、吸引した場合、毒素や刺激物、発がん性物質が同時に摂取され呼吸器系の障害も起きやすくなります。

 医療用マリファナの有効性を示すエビデンスが蓄積されてきた一方で、嗜好品として非合法的に世の中に浸透している現実があります。そこで、法律の整備が進められ、薬の専門家である薬剤師が常駐する薬局が販売者となることは、品質や安全性、流通の確保と言う面で非常に理にかなっていると思います。医療用マリファナがチェーン薬局で販売される日は、近い将来訪れることと推測しますが、古くから「薬も過ぎれば毒となる」と言われるように、適切に使用してこそ、薬としての価値があることを忘れずに。

資料1
Authorized Licensed Producers of Cannabis for Medical Purposes
https://www.canada.ca/en/health-canada/services/drugs-health-products/medical-use-marijuana/licensed-producers/authorized-licensed-producers-medical-purposes.html

資料2
ElSohly, Mahmoud A., et al. "Changes in cannabis potency over the last 2 decades (1995-2014): analysis of current data in the United States." Biological psychiatry 79.7 (2016): 613-619.

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

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