2018年11月29日 第48号

 サラダや、 野菜をたくさん使ったおかず。塩分控えめの汁物。漬物と一緒に雑穀米を食べる野菜中心の食事。足腰を鍛えるために、毎日一時間の散歩。一見、健康的な食事や運動をしているにもかかわらず、足腰が弱ってくることがあります。

 人間の筋肉量増加のピークは20歳前後で、40歳を過ぎると、筋肉量が徐々に減少し、加齢とともにその速度が早まります。こういった、加齢と関連した筋肉量の減少や、それが原因で筋力や身体機能が低下することを「サルコペニア(sarcopenia、加齢性筋肉減少症)」と呼びます。これはギリシャ語で、「サルコ(sarco)」は「筋肉、肉」、「ペニア(penia)」は「減少、消失」を意味します。「握力」、「筋肉量」、「歩行速度」を基準に 、これらすべてにおいて基準を下回ると、「サルコペニア」と診断されます。

 「サルコペニア」になると、筋力や身体機能が低下することにより、あまり体を動かさなくなります。すると、食欲が低下し、食べる量が少なくなるため、慢性的に栄養が不足する「低栄養」状態が続きます。この状態が、さらに「サルコペニア」を進行させるという悪循環に陥ります。「サルコペニア」は、骨量も低下させ、骨粗しょう症にもつながります。身体機能が低下し、体のバランス感覚が衰えるため転倒しやすくなり、さらに、骨粗しょう症で骨がもろくなっていると骨折しやすくなります。その結果、寝たきりになるリスクも高まり、「サルコペニア」は要介護に至る要因のひとつと考えられています。それだけでなく、運動量の低下は、脳細胞の萎縮につながることから、認知症との関係も研究されています。

 前述のような、一見、体に良いものばかりの野菜中心の食事も、実は、「サルコペニア」を助長しています。その落とし穴は、 タンパク質不足です。

 私たちの体は、基礎代謝、つまり、呼吸器官や臓器が機能するために、安静時に体が必要とする最小限のエネルギーの維持に必要なカロリーを十分に確保できなくなると、体が「飢餓モード」に入り、蓄積された炭水化物(グリコーゲン)や脂肪、そして筋肉のタンパク質も燃料として使い始めます。必要なエネルギーが補給できないままの状態が続くと、エネルギー源を筋肉に頼らざるを得なくなり、筋肉量が減ってしまいます。タンパク質を摂らない野菜中心の食事をしながら運動を続けても、足腰が鍛えられて筋肉がつくどころか、筋肉量の減少につながり、まったくの逆効果です。パフォーマンス向上を目指すスポーツ選手ではなくても、健康的な生活を営むためには、筋肉量を維持する必要があります。そのためには、筋肉の材料となるタンパク質を十分に補う必要がありますが、人間の体は、一度に大量のタンパク質を代謝することができません。ですから、1日に必要な量を毎食の食事に分け、継続的に摂る必要があります。それでは、一体どのくらいのタンパク質を摂ればいいのでしょう?

 タンパク質の摂取量の基準として、50歳以上で1日50gから60gが推奨されています。手のひらの半分に乗るぐらいの量をひとつ分とし、4つから5つが1日の摂取量の目安になります。タンパク質の中でも、特に必須アミノ酸が多く含まれる良質なタンパク質を摂ることにより、一層効果が上がります。必須アミノ酸は、体内で生成することができない栄養素のため、心がけて摂ることが重要です。大豆、卵、乳製品の他、魚介類ではまぐろ、かつお、あじ、肉類では鶏肉や牛肉などに多く含まれています。

 良質なタンパク質の摂取と同時に、運動も欠かせません。筋肉の喪失を避けるためには、ウォーキングのような低強度の有酸素運動だけでなく、筋肉に負荷をかけるウエイトトレーニングをすることが良いとされています。ウエイトを使わなくても、スクワットやプッシュアップなどの全身運動を取り混ぜることにより、さらに効果が上がります。

 筋力量を保つキーワードは、「タンパク質」です。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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