2018年6月21日 第25号

 飛行機での緊急時に下りてくる酸素マスク。離陸の際に着用の仕方の説明があります。その中で、子供連れの旅客は、まず自分が酸素マスクを着用し、その後で子供にマスクを着けるよう指示しています。親の心情的には、真っ先に子供の安全を考えるが故に、子供優先と考えてしまいがちです。しかし、酸素マスクを着用しないと数十秒で意識がなくなるそうで、子供への対応ができなくなり、 特に子供が小さい場合、親子ともに命を落としかねません。「子供を守るために、まず自分を守る」これと同じようなことが、介護にも言えないでしょう か?

 認知症に限らず、何らかの理由で介護を受ける必要がでてきたとき、ほとんどの人が、できるだけ長く、住み慣れた家や地域で生活することを望むでしょう。しかし、認知症の場合、他の多くの疾患と異なり、認知症の種類、診断が下ったときの健康状態や年齢などにより、予後がなかなか定められません。 介護が比較的短い間に終わる可能性も、何十年も続く可能性もあるのです。そこで重要になるのは、本人の希望というより、実は、介護に関わる家族や友人の「介護力」にかかってきます。「介護力」と言うと、介護の技術や知識、経済力を連想するかもしれません。もちろん、これらはあるに越したことはありません。特に、経済力がないことには、公的にせよ私的にせよ、必要なサービスを利用することができないのは事実です。しかし、それにも増して必要な「介護力」は、 介護者の気力と体力(健康)を合わせた持久力といえるでしょう。

 この「介護力」は、持続させることが重要です。家族だけで行う介護では、「介護力」は長続きしません。介護に一所懸命になりすぎるあまり、自分の健康管理を疎かにしてしまったため、介護者が体を壊すだけでなく、場合によっては、介護者が先に亡くなってしまうケースさえあります。その後、 介護をされていた人が路頭に迷うことになりかねません。日頃からの健康管理も大切ですが、もしものときに備えて、代わりに介護をしてくれる家族や友人を確保しておき、プロの派遣ヘルパーのサービス、短期的に介護を代行するレスパイトケアを行っている介護施設を探しておくと安心です。

 体の健康管理だけでなく、心の健康を保つためにも、介護のストレスを溜めないように心掛けることも大切です。介護をしているからこそ、趣味を止めずに続け、自分のための買い物や食事に出かける。頑張りすぎて介護うつに陥り、それが高じて介護自殺や介護殺人という結末を迎えないためにも、周囲の目を気にしすぎず、それぞれの家に合ったやり方で、ひとりで頑張らない。なかなか難しくはありますが、介護を続ける一日の中で、ほんの30分でも、自分のためだけの時間を設け、時には、レスパイトケアのサービスを利用してみてもいいでしょう。同じように介護をしている仲間が集まる自助グループに参加することで、 介護をしていない周りの人には相談できないことを話す機会が生まれるかもしれません。また、認知症に関するワークショップや講座を受講することで、新たな気づきがあるかもしれません。適当に空気抜きをしながら、介護者が元気でいることで、「介護力」が継続します。

 それでも、認知症のことをよく知らない上、介護の経験や介護への理解がない人は、 誤解や偏見を元にいろいろな意見を半ば押し付けてくるようです。もちろん、親切心からきている意見もあるでしょう。しかし、 それが「余計なお世話」、「ありがた迷惑」でしかない場合もままあります。そのような意見をうまく聞き流すことも、余計なエネルギーを使わずに、「介護力」を持続させるための大事な技と言えるでしょう。

 途中で息切れせずに介護を続けるために、介護者が自分自身の心身のケアをする。つまり、「誰かを守るために、まず自分を守る」ことは、介護の鉄則でもあります。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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