2018年4月19日 第16号
2週間ほど前、「加齢についてのダイアローグ」と題した講演を聞きに行きました。この講演は、イギリスで最初の「アルツハイマー・カフェ」を始めたジョーンズ先生が、「アルツハイマー・カフェ」とは何かについてお話をされました。
この講演の後に、認知症の介護から、「アルツハイマー・カフェ」の運営の仕方まで、いろいろなテーマでワークショップが行われることだけでなく、実際のカフェのデモンストレーションが行われることも知りました。 そして、バンクーバーで最初の「アルツハイマー・カフェ」に参加することになりました。
先生は、イギリスで最初の「アルツハイマー・カフェ」を始めた方ですが、アイディア自体は、オランダの心理学者であるマイセン先生が、1997年に始めたものをモデルにしています。ヨーロッパ各地でも行われており、カナダでは、ノバスコシアとニューブランズウィックで既に行われています。今回のバンクーバーでの開催(デモンストレーション)は、30年ほど前にイギリスに渡ったカナダ人のジョーンズ先生(現在は心理学者)が、昔、通っていたUBCの看護学校の恩師や、その他に関わりのあった方との繋がりで、3年がかりで実現に漕ぎ着けたそうです。
「アルツハイマー・カフェ」も、 日本で行われている「オレンジカフェ(認知症カフェ)」も、認知症の人の日常生活や介護者の支援の強化を目的に、認知症の人や家族、支援する人たちが参加して、話し合い、情報交換を行う集いの場という基本的なコンセプトは変わりません。私が理解する限りで大きく違うところは、開催頻度は月一回、開催場所は主に教会のホール、参加費用は無料など、どこの国でも同じモデルを継承していることでしょうか。これに対し、日本の「オレンジカフェ」は、基本的に地域の自治体単位で行われ、年間の開催回数、開催場所、参加費用はカフェにより様々です。
参加した「アルツハイマー・カフェ」の会場は、セントポール病院の近くの教会のホールで、 80名収容のスペースは満員御礼。申し込みが遅かった人や申し込みなしで来場した人が、参加者数の確認ができるまで、しばらく待機するほどでした。主催者側のメンバーやボランティアの人達を入れると、100名近い人が集まったはずです。私の記憶が正しければ、参加者のうち認知症の方は11名ということでした。参加者は圧倒的に高齢者が多いという印象です。
会場にはテーブルが10台ほどあり、テーブル毎に担当ボランティアが配置されます。トピックについての話を聞いた後、そのボランティアが、同じテーブルにつく参加者に、参加の経緯、話の感想やフィードバックについて尋ねます。その間に、コーヒーやお茶を飲んだり、サンドイッチやクッキーなどを食べたりしながら、同じテーブルの人と話をするだけでなく、トピックについて話した方(今回はジョーンズ先生)とも話す機会があります。
同じテーブルに同席したのは、ひとりで参加の女性と、高齢の認知症の父親と参加した姉妹と孫娘でした。このお父さんがよく喋る元気な方で、いろいろなことをすぐ忘れて、忘れたことは思い出せないと言っていましたから、自分が認知症であることは理解されているようでした。飲み物のお代わりを取りに行く途中で話をした方は、団塊の世代と思しき、高齢者というにはまだかなり若い感じの男性で、奥さんに連れてこられたということでした。思った言葉がなかなか出てこないようで、会話のスピードも自然とゆっくりになります。ジョーンズ先生のお話の途中、随所でコメントをされた高齢男性は、ほんの少し前に自分が言ったことを忘れてしまいますが、詩を諳んじたり、歌まで飛び出すとてもユーモアのある方で、 一躍、会場内の注目を浴びていました。
この様子に、日本語認知症サポート協会が行うオレンジカフェ・バンクーバーとの違いを感じました。オレンジカフェで、これまでに認知症の人ご本人の参加はありません。認知症の人や介護者が、認知症であることを「言わない」ことが、日系社会ではまだまだ主流のようです。この環境を変えない限り、認知症への真の理解は難しいのでしょう。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定