2018年4月12日 第15号

 「同じことを何度も尋ねる」、「物の置き忘れが増え、よく探し物をする」、「料理や買い物に手間取る」、「怒りっぽくなった」。この他にも、認知症の初期症状と考えられる変化はたくさんあります。当てはまる変化が複数あり、認知症の疑いがあると判断されると、その識別のためにいつくかの方法で検査が行われます。

 そのひとつが、「モントリオール認知評価検査(MoCA)」です。その名の通り、ケベック州モントリオールで開発された検査法で、元々は、MCI(軽度認知障害)を識別するために開発されましたが、その後、それ以外の臨床現場でも使われるようになりました。次に、標準的な検査として広く欧米で使われている、「ミニ・メンタル・ステート検査(MMSE)」です。認知症の診断用に、1975年にアメリカで開発されました。モントリオール認知評価検査とともに、カナダで使われている検査方法です。最後に、「長谷川式簡易知能評価スケール(長谷川式認知症スケール)」です。こちらは、 1974年に日本で考案され 、その後、1991年に改訂版が発表された認知機能検査です。日本の医療現場では、「ミニ・メンタル・ステート検査」と並んでよく使われています。

 この長谷川式認知症スケールを考案した、精神科医の長谷川医師が、昨年、 自分自身が認知症であることを公表しました。嗜銀(しぎん)顆粒性認知症*1と診断されています。日本の認知症医療の権威のひとりとして、認知症に関する著書や共編著書も数多く出版しており、現在も、認知症介護研究・研修東京センターの名誉センター長を務めています。

 インタビューで、認知症になっての心境を聞かれ、「認知症になった自分とそれ以前の自分には、それほど大きな差はなく、連続性がある感じがする。」と説明しています。認知症の人との接し方について、「認知症だからといって特別待遇はしない。軽蔑しない。敬遠しない。」という、これまで提唱してきた、「認知症の人を尊重し、中心におく介護としてのパーソン・センタード・ケアの大切さを、身を持って実感している」と答えています。また、今後の人生について、「自分のできる範囲で、人の役に立つことを続けていくこと、自身の認知症を公表することで、生きていることの尊さを伝えることや、明るい気持ちで、笑うことを大切にしていく。」と話しています。*2

 若くして発症する家族性の認知症を除き、認知症発症の確率は、加齢により確実に高まります。その他に、糖尿病、脂質異常症、高血圧、脳卒中、肥満など、食べ過ぎや飲み過ぎ、運動不足、喫煙など、決して良いとは言えない生活習慣から起こる生活習慣病が、認知症のリスクの上昇に拍車をかけることもわかっています。世界的に高齢化が社会問題となっている現在、他のいろいろな疾患と同じように、年を取れば取るほど、認知症も発症しやすくなります。お隣のおばあさんや友達のお父さんだけでなく、著名な学者先生も、有名なミュージシャンも、 スポーツ選手も、人気作家も、俳優も。誰がなってもおかしくないのです。

 バンクーバー出身のロックバンド、「スピリット・オブ・ザ・ウエスト」のリード・ボーカリスト、ジョン・マン。世界的に 有名なオーストラリアのロックバンド、「AC/DC」のギタリスト、故マルコム・ヤング。ボクシングのレジェンド、故モハメド・アリ。「ディスクワールド騒動記」シリーズなど、数々の著書を手がけたイギリスのSF作家、故テリー・プラチェット。長年ドラえもんの「声」で親しまれた女優、大山のぶ代。少し考えただけでも、これだけの人が思い浮かびます。

 認知症は差別をしません。自分は大丈夫、という根拠のない思い込みは、認知症の早期発見を遅らせます。

*1 嗜銀顆粒性認知症:脳内で嗜銀顆粒が蓄積して起こる、物忘れを顕著な症状とする進行の緩やかな認知症 。

*2 参照:産経ニュース ウェブ版 2018年4月4日号

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。