2018年2月22日 第8号
最近、高齢者が関与する交通事故のニュースが増えているように感じますが、気のせいでしょうか?
そこで、高齢ドライバーが関与した交通事故発生の状況について、日本の警視庁のウェブサイトで調べてみました。東京都内の統計では、交通事故の総件数は年々減少し続け、平成28年には32,412件で、10年前の半数以下となっています。その一方で、高齢ドライバーが関与する交通事故の割合は年々高くなり、平成28年には全体の22・3%を占めています。これは、平成19年の件数の約1・7倍です。
このような状況を受けて、2017年3月17日に、改正道路交通法が施行されました。改正法では、75歳以上のドライバーは、3年毎に免許を更新する際に、全員が「認知機能検査」を受けることになりました。この検査で、運転に必要な記憶力や判断力が低くなっていると判定された場合、全員が、医師の診断、または 「臨時適性検査」を受ける必要があります。検査の結果、認知症と診断された場合は、運転免許の「取り消し」または「停止」の処分を受けます。また、75歳以上のドライバーが、信号無視や逆走など、特定の違反行為をした場合も、「臨時認知機能検査」が義務づけられました。改正前は、「認知症の疑いあり」と判定されても、認知症に関連のある違反をしない限り、医師の診断は必要ありませんでした。
認知症が運転にもたらすリスクは様々です。アルツハイマー型認知症の場合は、道に迷いやすくなり、運転に戸惑ってしまうことや、車の位置関係がわからなくなり、車庫入れや幅寄せで車をぶつけてしまうことが増えます。脳血管性認知症の場合は、脳の血流が低下することにより、朦朧としてしまい、注意力が散漫になり事故につながることもあります。レビー小体型認知症の場合は、目の前の対象物を正しく認識できない状態にあるため、幻視、錯覚などの影響が出る場合もあります。認知症という診断を受けていなくても、加齢に伴う運動能力の低下が、運転に支障を与えると指摘されています。また、加齢により視力が低下し、焦点を合わせづらくなることから、遠近感が把握しにくくなり、判断力が低下することが原因となる場合もあります。
実際に、認知症と言われている人が交通事故を起こした場合、保険料が支払われるかも気になるところです。全国交通事故弁護団のウェブサイトでは、交通事故の加害者が認知症の場合でも、 被害者救済の観点から、通常の交通事故と変わらず補償されるため、被害者側にとって実質的な損失はないとしています。しかし、加害者側にとっては事情が異なります。過失割合が10の加害者であっても、人身傷害特約保険では治療費などが支払われますが、保険会社により、認知症を理由に保険金の支払いを拒否する可能性があるということです。また、認知症を理由に、交通事故の刑事責任を逃れられるわけではなく、懲役などの実刑もあり得るうえ、加害者の家族が監督責任に問われる可能性もあります。
検査が義務化されたため、渋々受ける人がいる一方で、自ら免許証を返納する人もいます。これは、「運転免許の自主返納」と呼ばれ、身体機能の低下などにより、運転を続けられなくなった人が、自主的に免許証を返納する制度です。返納後、希望者には、身分証明として使うことができる「運転経歴証明」が発行されます。また、自治体ごとに、公共交通機関の乗車券の交付や、タクシー料金の割引など、様々な支援サービスがあります。
それでも、 運転をやめた後、生活の変化や行動範囲が狭くなるという理由で、運転を続ける場合があるのも事実です。特に、公共交通機関を利用する選択肢のない地域では、日常生活に支障を来しかねません。この状況は、地域ぐるみで支援する必要があり、運転をやめた高齢者を支える社会的仕組みが求められます。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定