2017年10月5日 第40号

 日本の厚生労働省は、2015年(平成27年)に、「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)を策定しました。2013年(平成25年)に立ち上げられた「認知症施策推進五カ年計画」、通称「オレンジプラン」に変わる新戦略として、12の関連府省庁による対策が行われます。

 現在、高齢者の4人に1人は、認知症予備軍または認知症と言われています。2025年には、団塊の世代が75歳を超えて後期高齢者となり、認知症を患う人の数は、今の1・5倍になると予想されています。新オレンジプランでは、こうした背景を元に、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域で、自分らしく暮らし続けることのできる社会の実現を目指しています。

 「認知症施策推進五カ年計画」では、認知症の理解を促し、一般の関心を高める目的で、七項目の観点から認知症に対応することが計画されました。その第五項目、「地域での日常生活・家族の支援の強化」に挙げられている、「認知症の人やその家族に対する支援」の一環として始まった活動が「オレンジカフェ」です。 同計画ではこれを「認知症カフェ」と呼んでいますが、 広く「オレンジカフェ」と呼ばれるようになりました。

 「オレンジカフェ」は、認知症の人と介護者となるその家族、地域住民、専門職に従事する人など、誰もが参加でき集える場で、カフェの普及により、認知症の人やその家族への支援を推進します。孤立しがちな認知症の人や家族がお互いの体験談を聞いたり、悩みを打ち明けたり、一時的にでも日頃の介護から解放される場所にもなります。その究極の目標は、認知症でも安心して暮らせる社会をつくることです。「オレンジカフェ」は、地域の自治体単位で行われており、開催場所や時間帯、行う頻度、名称は様々ですが、徐々に日本全国で定着し始めています。

 これらの計画の背景には、認知症を患う人の増加が日本で深刻な社会問題になっていることがあります。しかし、これは日本に限ったことではなく、世界的な問題となっています。つまり、海外の日系コミュニティーでも同じ傾向が見られるということで、バンクーバーも例外ではありません。バンクーバーでは、成人してからカナダに移住してきた邦人だけでなく、カナダで生まれ、高校を卒業する頃まで日本で教育を受け、戦後カナダに戻ってきた日系人にとっても、言葉の壁が、日本語での認知症に関する情報の収集やサポートの妨げになっています。

 そこで、 バンクーバーの日系コミュニティーでも、日本語での認知症カフェの需要があると考え、今年の3月から 「オレンジカフェ・バンクーバー」を開始しました。他のメンバーと共同で立ち上げた非営利団体、「日本語認知症サポート協会(Japanese Dementia Support Association)」を母体に運営しており、特別企画1回を含め、この10月で8回目となります。更に、オレンジカフェの活動を地域のコミュニティーで広めるため、地域活動に特化した助成金を申請し、その助成金を使って、10月に2回目の特別企画、および、日系コミュニティー以外の方たちも対象にして、週末のオレンジカフェを、9月から月1回の3回シリーズで行っています。

 認知症についての情報、特に日本語での地元の情報が限られていることから、日系コミュニティーの他の組織・団体と連携し、コミュニティー内でのサポートの一端を担うことを目標としています。認知症についての誤解や偏見をなくし、正しい情報を普及させることを目指し、地道に草の根的な活動を続けていくことで、コミュニティー全体の認知症についての理解を深めることが、認知症の人や介護者としての家族を孤立させない地域のサポートに繋がると信じています。その過程で、 地域の企業や団体・組織を巻き込んで、息の長い活動を続けるための初めの一歩として、「オレンジカフェ・バンクーバー」が生まれました。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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