2017年7月20日 第29号
認知症は、一般的に加齢に伴い発症率が高くなります。生活習慣、生活環境、社会的背景などの違いにより、個人差がかなり大きいものの、加齢により身体機能や運動機能も低下します。認知症の高齢者の場合、加齢によるこれらの機能の低下に加え、認知機能も衰えるため、車の運転をすることによる危険度が増すことになります。
しかし、認知症の症状がある人が起こす人身事故や物損事故は後を絶たず、認知症の診断を受けた後も車の運転を続けている人は、予想以上に多いと考えられています。この傾向は、特に、公共交通機関のサービスが限られていたり、サービスが全くない地域で顕著です。
認知症およびその兆候があるドライバーには、①運転中に行き先がわからなくなる、②交通ルールを無視する、③脇見運転をする、④ハンドルやギアチェンジ、ブレーキペダルの操作が遅くなる、⑤とっさの時にアクセルとブレーキを踏み間違える、⑥知らないうちに車に傷をつけている、などの特徴があります。自覚のないまま、これらの行動をとる傾向があるため、思わぬ事故につながります。
例えば、認知症の症状があった76歳の男性が、医師や家族から運転をやめるように注意されていたにもかかわらず、運転を続けていました。その男性が運転する軽トラックが下校中の児童を次々とはね、事故現場から逃走したうえ、事故の事実を隠していました。裁判の結果、執行猶予なし、懲役1年2カ月の実刑判決が言い渡されました。その他にも、 歩道を暴走し歩行者を死亡させたケースや、電車の線路上を走行したケース、高速道路の逆走など、正常な判断能力があれば起こり得ない事故が起きています。しかし、周囲の心配をよそに、運転している本人は運転に自信があり、自分は大丈夫と思っていることが多いため、なかなか運転をやめようとしません。
高齢のドライバーでは、身体機能の低下を自覚し、自らの安全と道路交通に与える影響を考えて、申請して運転免許を取り消す方(自主返納)もいらっしゃいますが、家族に説得されて渋々運転免許を返納したり、免許更新の際に必要な検査や講習の結果、および医師の診断書の内容により更新ができないケースもあります。認知症の症状のある人が事故の加害者になった場合、認知症でない加害者と同じように罪に問われ、賠償責任を負うことになります。認知症で責任能力がないと判断された場合、家族が監督責任を問われることもあります。本人に損害賠償金を支払う能力がなければ、家族が支払い請求を受けることになります。また、認知症の進行度や状況によっては、事故を起こした際の保険金が減額、または全く出ないこともありえます。
身体機能や運動機能はもとより、認知機能の低下も、いずれ限度を超える時期がきます。自分の能力を過信せず、周りの意見も聞いたうえで判断する必要があります。認知症の症状がある場合、そこが難しいところではありますが…。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定