2017年6月22日 第25号

 認知症診断では、認知機能低下の早期発見の重要性がよく知られるようになりました。しかし実際は、多くの場合、認知機能低下は見過ごされがちです。その原因として、認知機能低下による記憶障害を加齢による「物忘れ」ととらえてしまうこと、一人暮らしの場合、周囲が変化に気付きにくく、まして、本人が自分自身の変化に気づくことも難しいことが考えられます。

 こういう状況の中で、早期発見のために見逃せないのが「嗅覚」です。認知症の代表的な症状である記憶障害は、記憶を司る「海馬」の萎縮により起こりますが、発症率の最も高いアルツハイマー型認知症では、「海馬」に異変が起きる前に、脳のさらに外側にある「嗅内皮質」が影響を受けることがわかっています。「嗅内皮質」は、嗅覚に大きく関わる部分であることから、記憶障害より先に嗅覚低下が症状として現れます。MCI(軽度認知障害、Mild Cognitive Impairment)の場合も、嗅覚低下が見られるため、嗅覚が認知機能低下の早期発見の鍵になると考えられています。

 嗅覚について、もうひとつ。たまたま見た日本の健康情報テレビ番組のビデオで、認知症予防としてのメディカル・アロマ・オイルの利用が紹介されています。アロマ療法を使って効果的に嗅神経を刺激し、脳を若返らせ、認知症を予防するというのです。昼はローズマリー2対レモン1を合わせたオイル、夜はラベンダー2対オレンジ1を合わせたオイルを嗅ぐアロマ療法で、神経細胞活性化作用がある昼用アロマは、午前中に2時間以上嗅ぎ、神経細胞鎮静化作用がある夜用アロマは、就寝1時間前から、2時間以上嗅ぎます。昼用と夜用を併用することで、神経細胞の活性化と鎮静化ができるため、より効果が上がるそうです。

 そのビデオでは、認知症の疑いがある人のアロマオイルの使用前・使用後の行動を、映像と認知機能の検査結果で比較しています。使用前は、同時に複数のことができず、途中で困惑している様子がはっきりと見て取れます。ところが、使用後は、料理をしながら他の家事を難なくこなしています。また、認知機能の検査結果は、認知症予備軍ゾーン、それもかなり認知症ゾーンに近かった数値が、 驚いたことに、一週間後には正常範囲の数値になりました。認知機能が正常レベルの人でもアロマオイルの効果を調べたところ、認知機能の向上が見られました。一般に、65歳以上の人がなりやすいと言われている認知症は、その種類により、症状が現れる20年以上も前から変化が始まると言われています。このことから、40代、50代から使い始めることで、予防効果が期待できるということなのです。

 認知症になるかどうかは、誰にもわかりません。若いからならないというわけでもありません。しかし、自分は大丈夫だと高を括くくって何もしないより、誰にでもでき、体に害がない予防法があるのなら、 試してみて損はないでしょう。もし、気になる症状がある場合は、絶対そのままにしておかず、早めにファミリー・ドクター(かかりつけ医)の予約を取ってください。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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