2017年6月8日 第23号
「認知症」とは何か、そしてその種類や症状について、徐々に一般に知られるようになってきました。しかし一昔ほど前まで、「認知症」は「痴呆」、「痴呆症」と呼ばれていました。
これらの用語が巷で使われる中、2004年12月に、日本の厚生労働省は「『痴呆』に替わる用語に関する検討会」の報告書を発表しました。用語の検討が行われた背景に、「痴呆」という用語に侮辱的な意味合いがあること、認知機能の症状としての本質を正確に表していないため、誤解や偏見を生んできたこと、この用語が羞恥心や恐怖心につながり、早期発見・早期診断を妨げていることなどがありました。
検討会では、「痴呆」は「あほう」や「ばか」に通ずるものであるとし、その後、正式に用語の変更が始まり、公では使われなくなりました。しかし、いくら呼び方が変わっても、人々に刷り込まれた誤解や偏見はそう簡単にはなくなりません。認知症についての正しい知識や理解のない人が、「痴呆」という用語を使うのを今でも時々耳にします。頭ではわかっていても、心では「痴呆症」は自動的に「認知症」にはならず、考え方を変える何かのきっかけがない限り、誤解も偏見もなくならないのです。
1906年に、後に「アルツハイマー病」、現在の「アルツハイマー型認知症」として広く知られるようになった症例を、ドイツの精神科医、アロイス・アルツハイマー医師が学会に発表してから、早くも100年が過ぎました。いろいろな調査・研究が行われ、認知症の発症の仕組みは解明されてきましたが、未だに根治する治療薬や治療法はありません。それどころか、人の寿命が延びるにつれて、発症する人の数は増えています。MCI(軽度認知障害)といわれている人を含めると、認知症を発症する確率は65歳以上の人の4人にひとりと言われています。
昨年の9月に、本格的に認知症の啓発活動を始め、今年の2月に、2人のパートナーと非営利団体(Japanese Dementia Support Association、日本語認知症サポート協会)を立ち上げてから、ワークショップや認知症関連の記事の執筆、オレンジカフェ(認知症カフェ)の活動などを通じて、いろいろな方と認知症についてお話しする機会が増えました。そこでいつも感じるのは、これだけ認知症が取り沙汰されているにも関わらず、特に壮年期から中年期にさしかかる年代の関心度がとても低いことです。自分自身も親もまだ若いという認識で、周りに認知症の人がいない場合、全く危機感がなく、まさに「他人事」なのです。30代からでも発症すること(若年性認知症)がわかっていても、認知症の種類により、実際に症状が出るまでに、20年以上の長い時間をかけて進行することを聞いていても、自分だけは大丈夫と思い込んでいる節があります。
認知症は、「年寄り」だけがかかるものでも、自分以外の誰かがかかるのでもなく、壮年期以降の誰でもがかかり得るもの、という理解がない限り、認知症に対する意識改革はあり得ません。「自分だけは大丈夫」と思っている人の意識をどう変えるか。これが、認知症啓発の最大の課題です。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定