2017年3月23日 第12号

 カナダ広しといえども、ビクトリアほど教会の多い町はそれ程ないのではと思う。町が小さいからそんな感じを受けるのかと思ったが、調べてみると確かにここにはchurchと名の付くものは180ほどもあることが分かった。

 この中には、教会がエスニック・コミュニティの中心になっているものも多い。例えばポルトガル人、ギリシャ人などが良い例で、夏に催される「〜祭」などに行ってみると年齢層の幅は広く老若男女が入り交じっている。彼らの生活には教会というものがしっかりと定着しているように見えるが、それでもシニア層は若者の教会離れを嘆いている。

 一方、白人の多いキリスト教系の教会に行き参列者を後ろから見ると、白髪、薄毛、染め毛のシニアたちがほとんど。それらの人々の合間にごくごく僅かに就学前の小さな子供連れの中年カップルがいる、というのが今日の(少なくともビクトリアでの)教会のあり様のように見受けられる。

 当地に長く住んでいる年配のカナダ人と話していると、週日でも「今日は教会の何々があって手伝いに行く」というようなことを頻繁に口にする。煎じ詰めれば「シニア=教会活動」という構図になり、善意のボランティアによって教会というのは成り立っているのだと改めて知るのだ。

 では日本からの移住者、日系人はどうかといえば、小規模ながら彼らが集まる教会は存在するものの、そこが「コミュニティの中心」にはなっていない。周知の通り一般的な日本人は特定の「宗教」を持たず、結婚式は「教会」、子供のお宮参りは「神社」、人生の終焉は「お寺」ということに何の違和感もない国民であることを考えれば、むべなるかなと思う。

 では当地の日本関連の団体にはどんなものがあるかといえば、英語中心の日系人グループ、日本語中心の移住者グループ、子供が日本語学校に通っている親のグループの三つである。だが日常的な横の繋がりはあまりないようだ。

 私的な推察だが、その最大の理由はバンクバーやトロントのように、バックグランドや世代を問わずに集える特定の場所がないことにあると思われる。町の公民館を借りての「お正月会」や「カルチュラル・フェア」には、カナダ人・日系人・移住者たちがかなりの数で集まる。

 それを考えると、場所さえあれば、もっとまとまったコミュニティを作り、カナダ人に向けて「日本文化発信の要所」として活動できると思うのだ。

 この島は「午後のハイティー」の風習が今も根強く残るほど英国風で、それを人々はとても誇りにしている。カナダにいて、そんな雰囲気を楽しめるのはうれしいことである。

 一方、ここは太平洋の向こうは日本という地理的条件や、「犬も歩けば国際結婚の日本女性にぶつかる」と言われるほど若い人材がいる町でもある。にもかかわらず、語学力もある彼女たちの持つ潜在能力を発揮できる場がないのは、とても残念である。

 夫を通してカナダ社会に溶け込んでいるのは真に結構ながら、移住者にとって母国を忘れることは決してできない。満たされない思いを里帰りで埋めてしまうのは実にもったいないことだ。

 

 


サンダース宮松敬子氏 プロフィール
フリーランス・ジャーナリスト。カナダ在住40余年。3年前に「芸術文化の中心」である大都会トロントから「文化は自然」のビクトリアに移住。相違に驚いたもののやはり「住めば都」。海からのオゾンを吸いながら、変わらずに物書き業にいそしんでいる。*「V島 見たり聴いたり」は月1回の連載です。(編集部)

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。