2018年8月2日 第31号
家族で意見を合わせておかないと…
親が倒れたなどの「もしも」になると、近くにいる家族が対処することになります。その状況での最善だったとしても、とかく、他の人がやることは気にいらないもの。「兄に任せていたら大変なことになった」「私だったら、あんなことはしない。親が不憫だ」などの不満が、他の家族から出てくる、というのはよくある話です。
「もしも」の際の決め事を家族で話し合って、意見を合わせておくと、少しでも家族間のもめごとを避けることができます。私も家族内では話が進まなかったので、「第三者」に母の意向を聞いてもらったという話を、前回のコラムでしました。
では、「そんな人がいない場合」はどうすればいいのでしょうか?日本には無料で相談に乗ってくれるところがあるのです。
よろず相談の「地域包括支援センター」
介護保険法で中学校区にひとつずつ置かれているセンターで、神戸市ではこのセンターは「あんしんすこやかセンター」、名古屋市は「いきいき支援センター」、横浜市は「地域ケアプラザ」など、別称になっているところもあります。
ここは、在宅の高齢者が、介護保険を使ってヘルパーに来てもらったり、デイサービスに行けるように手はずを整えてくれたり、ひとり暮らしの人を訪問したり、介護している家族へのサポートもしてくれます。
もうひとつ、このセンターで提供しているのが「高齢者総合相談」。文字通り、高齢者に関する様々な相談に乗ってくれるサービスです。これを使って、「親の意向を聞き、家族間で意見を合わせておく」ことができます。
「いつ」行けばいいの?
「まだ元気で介護は必要ない」という方でも、早いうちに、一緒に行くといいと思います。「早め」なので、みんなの心に余裕があるというのが一番の理由です。介護も施設も「まだ他人事」として聞けるし、「同じ情報を家族一緒に聞く」ので、「知らない、聞いてない、親はそんなことは言ってなかった」といった見解の相違を少しでもなくせます。また、第三者がいると、家族同士で話すよりは話がまとまりやすかったり、親も「実は…」と本音が言いやすいかもしれません。
母と妹が相談に行くと…
母の場合、「できる限り在宅で暮らしたい」ということだったので、いずれ使うかも知れないサービスはどういうもので、どうやって始めるのか、などを相談しに行くことにしました。
妹が帰国した際、自宅近くのセンターにアポを取って、母親と訪問してくれました。社会福祉士とケアマネージャーの方が、それは親切に介護保険やら在宅ケアなどいろいろと説明してくれたそうです。妹は、娘が海外にいることを責められるのでは、と思っていたらしいのですが、「今は、子供さんが海外や日本でも遠くに住まわれている方が多いですよ」と言ってくれたそうです。
「ふれあい喫茶」を勧められる
センターの人たちは、話をしながらも、母親の状態をちゃんとチェックしていて、「今のところ支援も介護も必要ありませんが、月に一度の『ふれあい喫茶』に来られては?」と勧めてくれました。コーラスやバンドなどの演奏があったり、古い映画を上映したり、地域に住む高齢者が集う場のようです。
母は、ここに行く前は、「暗い老人ホームのようなところだろう」と思っていたのに、優しいスタッフや、明るい感じの場所だったので安心したようでした。「ふれあい喫茶」も、直接勧められたこともあり、「来月の映画おもしろそうだから行ってみる」と即答したそうです。
意外にも、それから母は「ふれあい喫茶」に毎月のように行くようになりました。行くたびにセンターの人が声をかけてくれるので、「心安い知り合い」と母は感じるそうです。センターの人には、「母の状態を知る機会」になるようで、何度か顔を見せないと「お元気ですか?」という電話が来るらしいのです。
敷居が低く、入りやすいところから
お年寄りが部屋に集められて、お遊戯やお絵かきなどを「させられている」姿は、元気な高齢者には嫌なものでしょう。「自分はあそこに属したくない」という気持ちが、「高齢者なになに」とつくサービスを嫌い、拒否することにつながるのではないでしょうか。
その点、「ふれあい喫茶」で映画を見るなら、敷居はずっと低いです。なんとなくシステムに入っていける、いい入り口です。私は一度、クリスマスパーティに参加しました。大学のコーラス部がクリスマスソングを披露してくれて、ケーキとコーヒーが出て参加費は100円。会場は100人以上来ていて一杯でした。「ふれあい喫茶」は各地の地域包括支援センターがやっているので、機会があったら親御さんと一緒に参加してみてはどうでしょう?
角谷 紀誉子
著者略歴:ワシントン州認定ソーシャルワーカー。サクセス・アブロード・カウンセリング代表。留学生・駐在員・国際結婚家族などを対象に心理カウンセリングを提供してきた。著書に「在米心理カウンセラーが教える、留学サクセスマニュアル」(アルク社)、「親が読む、留学サクセスマニュアル」など。2017年、日本の介護システムをわかりやすく解説し、ケーススタディを用いて日本の親に何ができるかを具体的に紹介した、「遠隔介護ハンドブック」を出版。アマゾンUSAにて発売中。秋にバンクーバー「日本語認知症サポート協会」でセミナー予定。www.successabroadcounseling.com メールはThis email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.