2019年11月14日 第46号

 毎月、毎月やってくる、悪魔の様な生理。ある人は、予定月経の更に一週間前から、イライラしたり、何でもない事に過剰に反応したり、痛烈な言葉で返答したり、反対に落ち込んでみたり、そうかと思えば、考えがまとまらなかったり、逆に、先先の事が妙に読めたり…この様な精神面の変化ばかりでなく、身体的な変化が伴うことも良く見られます。乳房がはったり、時には痛んだり、お腹がシクシクと痛んだり、腰が重苦しく、だるかったり、痛かったりと、苦しく不快な時を過ごします(月経前症候群 PMS:Pre MenstrualSyndrome)。やがて、生理の発来と共に周期的に襲ってくる激しい下腹部痛とそれに伴ってくる吐き気や寒気…お腹を押さえて、真っ青な顔をして(月経困難症)、それでも学校や会社にと頑張っている女性は多いのです。鎮痛剤を服用しながら、平然と勉強でも仕事でも成し遂げてしまっているのです。主治医を受診する時間が取れなかったり、勉強や仕事の遅れを気にするあまり、受診を躊躇する方が多いのです。生理が終わってしまうと痛みから解放されるので、受診する事すら忘れてしまいます。そのため、受診の機会はどんどん遅くなってしまいます。早ければ、早い程良いのです。思い切って受診してみましょう。子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、など腫瘍性疾患や子宮内膜炎、頸管炎など炎症性疾患などの子宮疾患ばかりでなく、卵巣腫瘍や炎症性疾患に起因する疾患が指摘される事も有ります。これらの中で、直ちに治療を要するものから、緊急手術を要するものなど多岐に及びます。西洋医学的治療が必要であれば勿論西洋医学的治療が優先されることに異論はない事と思います。従って、緊急性を有せず(無論、悪性疾患を除外)、症状も軽度の方に対しては、(時には、激しい痛みにも、漢方療法を行う)漢方療法の適応となります。

 生理痛(月経痛)は多くの場合“瘀血(おけつ)”が原因となる事が多く、気血津液弁証(きけつしんえきべんしょう)、また最近では風寒(ふうかん)、六淫弁証(ろくいんべんしょう)に由来する場合も良く見受けられます。また、ストレス(肝)に起因する臓腑弁証(ぞうふべんしょう)、月経困難症も多く見られます。勿論、これ以外の原因で症状を引き起こしている場合も有ります。原因を知ることはとても大切な事です。原因によって治療法が異なって来るからです。例えば、瘀血と診断されれば、数多くある駆瘀血剤の中から、貴女の体質にあった薬剤が処方されます。その体質の診察法は四診(ししん)と言われる独特な診察方法で為されます。身体の部位別に温度の違いや、圧痛、擦過時の異常、硬さ、などの診察ばかりでなく、舌の状態や脈の性状などから、現在の身体状況を把握したうえで、治療に移ることになります。西洋医学的な診察法とは大きく違うので、多少の違和感が有るとは思いますが、とても大切な診察法ですので、緊張しないで、普段の自分、いつもの自分で居ましょう。何も、心配など必要有りません。何千年と培われた伝統ある診察法ですから。

 


杉原 義信(すぎはら よしのぶ)

1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。

 

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