2019年10月10日 第41号

 ヘルペス感染? あ〜、くちびるに出来る吹き出物ね! 水ぶくれになって痛いオデキね!…。ほとんどの方は、思い当たる事があると思います。何度か経験された事が有るかもしれませんね。みずぶくれ(水疱)や潰瘍が主な症状で痛みが伴うことも稀ではありません。これは単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)によるもので多くの場合は幼少期に周りの人から唾液などで感染を受けて、成人になるまでに50~80%の人は罹患していると言われています。再燃を繰り返すことも多いので、気分的には鬱陶しく肉体的・精神的な苦痛を感じる方も少なくありません。これとは別に、HSV-2 型と呼ばれるウイルス感染は性器ヘルペスウイルス感染症(Genital Herpes Simplex Virus Infection)といわれ、性感染症(Sexually Transmitted Disease:STD)の1つに数えられています。さらに、帯状疱疹(Herpes Zoster)と呼ばれるヘルペス感染症もあります。これは神経の走行に沿って痛みがとても強く、水疱を伴う疾患です。一口にヘルペスウイルス感染と言っても幾つか種類があります。ここでは、性器ヘルペスウイルス感染症に焦点を絞って話を進めて行きたいと思います。性器ヘルペス感染症は外陰ヘルペスとも呼ばれ、外陰部に散発性或いは集簇性に痛みを伴った水疱や潰瘍、ビランを形成し、強い疼痛を伴うウイルス疾患です。チョッと聞きなれない言葉かも知れませんので、言い方を変えれば『外陰部周辺から肛門付近にかけて、タダレや水ぶくれが、人によっては少なかったり、多かったりして、その上痛みがとても強い症状』です。感染部位が広範囲に及んでくると、痛みが相当強く感じられ、排尿時には特に痛みを強く感じ、極端な例では排尿に困難を生じます。一方では、感染を受けているにも関わらず、症状を感じない不顕性感染(無症候性感染)の場合が有ります。症状には相当なバラツキが有るようです。ヘルペスウイルスは所属神経節に潜伏感染しますので、風邪や疲労などの免疫が低下した時に発症を繰り返すことが有ります。性器ヘルペスの場合、ウイルスは骨盤内仙髄神経節に潜むため、稀ではありますが、月経の発来毎に症状が繰り返されることも見受けられます。このようにヘルペス感染症を見てきますと、感染したら、妊娠してはいけないの?とか、不妊症になってしまうの? と不安になってしまう方が居られるかもしれませんが、心配の必要は有りません。妊娠は可能ですし、不妊症になることも有りません。ただ、この性器ヘルペス感染症はSTD (上記参照)の中でもクラミジア感染症、淋菌感染症に続いて頻度の高い感染症ですので、妊娠に合併する頻度が高くなることが懸念されます。もしも、万が一、貴女が妊娠中に初めて感染してしまった場合(初感染)には痛みや潰瘍、ビランなどの症状はそれ自体勿論不快ですがそれにも増して、大切な赤ちゃんに重大な影響を及ぼす可能性が出てくるのです。妊娠初期であれば流産の可能性が有りますし…妊娠後期30〜40週にかけての初感染を受けたとしたら…。おできや痛みの症状を感じたら…。定期健診の時でなくても、出来るだけ早く主治医に相談しましょう。今後の妊娠経過における検査や治療についての検討や、また、分娩の方法について(産道下部や外陰部に存在するウイルスを避ける必要から)帝王切開術が選択されるのか経膣分娩か等、医療者の方針やアドバイスを伺いましょう。医療従事者は常に貴女の味方ですし、生まれてくる赤ちゃんを命がけで守ってくれます! 貴女の後ろには頼りがいのある医療者たちが優しく待機していてくれますから、安心して、精一杯頑張れば、悪い結果など有りません!

 


杉原 義信(すぎはら よしのぶ)

1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。

 

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