2018年4月5日 第14号
緑まばゆい新芽が日ごとに大きくなって、木々の蕾も膨らみ始め、寒い季節も緩み始める頃になると、穏やかな季節なのに、目が痒かったり、涙で目が潤んだり、鼻がムズムズ痒かったり、くしゃみが止まらなかったりと、花粉症で悩んでいる方にとっては、チョット嫌な季節かもしれません。外を歩くときは マスクをして鼻を守り、ゴーグル(?)の様な眼鏡をかけて目を守り…というわけにもいかず、とは言え、仕事場では、鼻水をすすりながら、目をこすりながら仕事をすることもできず、で、毎年、抗ヒスタミンやステロイド、消炎剤などを使ってこの季節を乗り切ってこられたことと思います。でも、もしも、お腹にチッチャナ生命が宿っていたら、薬物の使い方は慎重になります。特に妊娠の初期、16週位までは器官が形成される時期で、赤ちゃんの発育に多大な関心が払われます。主治医を始め、助産師、看護師、薬剤師、栄養士の方々との連携が、とても重要な役割をはたします。この上なく尊い生命を担って発育を続けるお腹の赤ちゃん。同時に休むことなく、生命を育んでいるママの双方に最高の環境の提供をし続ける、プロの方たちです。どのようにして最高の母児環境を整えるか絶えず考え、助言してくれます。貴方とお腹の赤ちゃんの強力な味方なのです。頼りがいのある味方です。何でも、相談してみましょう。きっと、妙案が得られることと思います。
花粉症に対するもう一つの選択肢に、漢方療法があります。器官形成期で、どうしても治療が必要とされる時の治療法として候補に挙げられるものです。妊娠時はお腹の中の赤ちゃんによって熱成分が産生される事によって、ママは暑がりになりやすいのです。こうした代謝の亢進(軽度ではあるが)と、水血症(ママの血液成分のうち、血球成分より血漿成分が多い状態:これも軽度)が必然的にママの身体の中では(目には見えませんが)変化しているのです。少し話が分かり難くなってきましたが ガマンガマン!もう少し読み進んで下さい。ガンバレ!!これらは妊娠維持の為には『必然』なのですから、これらの要素を取り除くわけにはいきません。ですので、陽症(ようしょう)(暑がること)である事と水滞(すいたい)(痰飲(たんいん)・水腫(すいしゅ))であること(水血症(すいけっしょう))は異常な所見とは言い切ることができませんが、症状を悪化させる因子となることはあるのです。それらを、踏まえたうえで、処方を選択します。ママのお腹の中で大きく育ってゆく赤ちゃんには限りなく障(さわ)りのない物で処方されます。ここでも、四診(ししん)(後述)と弁証(べんしょう)(後述)は必要になります。舌診(ぜっしん)(舌質(ぜつしつ)と舌苔(ぜつたい)の観察による診察法)と脈診(みゃくしん)(脈の所見から診察する方法)は特に大切な情報源となりますので、受診するときは歯ブラシで舌苔をこすったり、色の濃い食べ物や、着色料を多く含んだものは、舌診ができなくなる事がありますので、これらを避け『いつもの自分』を見てもらいましょう。赤ちゃんの為にもママの為にも大切!!
・四診(ししん):望診(ぼうしん)・聞診(ぶんしん)・問診(もんしん)・切診(せつしん)の総称。東洋医学の独特な診察法でその中に舌診(ぜつしん)や脈診(みゃくしん)も含まれます。
・弁証(べんしょう):四診で得られた所見による理論的かつ、合理的な説明。
花粉症は春先にだけ見られるのではありませんので、秋季に見られたり、時には夏季にもみられたり、ときには風邪との区別がつきにくいことも有ります。あるいは、症状は風邪とよく似ていても全く違った病気の時も有りますので、症状が急激であったり、長引くようであれば、医療機関の受診をお勧めいたします。
杉原 義信(すぎはら よしのぶ)
1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。