2019年10月10日 第41号

 投票日を目前にした6党首による党首討論会が7日、ケベック州ガティノーで行われた。全党首が揃う公式な党首討論会は2回開催が予定されているが、今回は第1回として英語で行われた。

 あらかじめ討論される内容が決定しているが、質問はその場で視聴者もしくは司会者から出される。

 どの質問にどのタイミングで誰が答えるかの決定は司会者に委ねられているが、各党首とも限られた時間で自分たちの政策を主張した。

 最も激しい討論となったのは、次期政権を争っている与党自由党ジャスティン・トルドー党首と野党第一党保守党アンドリュー・シェア党首。

 シェア党首は外交問題を聞かれた最初の質問からトルドー党首を攻撃。質問には答えずに、トルドー党首は顔を黒く塗った写真が問題になったが、彼は自身の政策でも国民を支援する振りをするだけの偽善のマスクをかぶっていると非難。先住民支援、SNCラバラン問題、女性支援、中間所得層支援、どれも口先ばかりの支援で内容が伴っていないと言い、「ほら吹き」で「詐欺師」だと面と向かって非難した。そんな人物にカナダを治める資格はないと言い放った。

 時間切れのためトルドー党首にこの発言への反論時間はなかったが、今選挙最大のライバルとみているシェア党首に対して、環境問題や富裕層優遇政策などで反撃した。

 トルドー・シェア両党首の応酬があまりにも激しく途中では2人が何を言っているのか分かりづらい場面が何度もあった。

 そうした時に介入するのは新民主党(NDP)ジャグミード・シング党首で、2人が環境問題で言い争っている時に割って入り、テレビ目線で国民に直接訴え、「何もミスター先延ばし(トルドー党首)、ミスター否定(シェア党首)のうちどちらかを選ぶ必要はない。他にも選択肢はある」とNDPがあることを強調し、視聴者の注意をひきつけた。

 トルドー党首はシング党首に対してケベック州で可決した法案21について、なぜシング党首は連邦政府として介入すると言わないのか、自由党は介入する用意があると攻めた。ケベック州の法案21は、州内では教師や消防士、弁護士など公的機関に従事する者は仕事中に宗教的シンボルを身に着けることを禁止する法案で、ケベック州では宗教的公平性を保つためと支持されているが、ケベック州以外では差別的法案として批判する声が多い。宗教的シンボルはイスラム教やユダヤ教信者が身に着けるベールや帽子などが対象で、インド系カナダ人でシーク教徒のシング党首が頭に巻くターバンも対象となる。自身ですら対象になる法案に対してなぜ介入すると明言しないのかを問われたシング党首は、法案に対しては100パーセント反対だが、すでに裁判所に提出されているため政治が裁判に介入することはしないと語った。

 トルドー首相が多宗教を推進しているように聞こえる質問だが、顔を黒塗りして謝罪した党首が、インド系シーク教党首として毎日のように差別的な批判を受けているシング党首を攻撃するのはお門違いと言う声も上がっている。ただケベック州で劣勢なNDPをさらに追い込むためにシング党首をこの問題で攻撃するのは、自由党がNDPも脅威に感じ始めたからではないかとの見方もされている。

 そして今回の討論会で最大の争点となった環境問題ではグリーン党が勢いづいた。スウェーデン出身の16歳環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの言動が注目を集め、気候変動問題についての関心が高まる中で、各党とも環境問題対策について熱弁をふるった。若い層の取り込みを狙ってのことだが、最も環境問題に詳しいグリーン党エリザベス・メイ党首は、自分たちこそが環境対策を実現できる政党と自負するトルドー党首に対して、保守党前政権が定めた削減基準さえもクリアできないにもかかわらず、パイプラインを承認してさらに悪化させようとしていると批判。グリーン党は、パイプライン、石炭、石油・ガス開発の承認はせず、グリーンテクノロジーによる経済発展を目指しながら自由党が目指す2030年までに2005年比で30パーセント削減よりも30パーセント温室効果ガスを削減すると語った。

 また、フェミニストを自称するトルドー党首が妊娠中絶に反対するシェア党首を攻めている場面では、シング党首が男性2人が女性の選択の権利について言い争うのはおかしいと介入すると、唯一の女性党首であるメイ党首が、これまで女性が懸命になって築いてきた女性の権利を1インチでも削減されることは絶対に許されないと強い口調で語った。

 選挙は10月21日に実施される。

 

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