2018年10月25日 第43号
1960年に出版され、映画にもなった有名小説『アラバマ物語(To Kill A Mockingbird)』。アメリカ黒人に対する人種差別を描いた小説で、北米の高校の学習教材としても用いられてきた。
しかしオンタリオ州ピール郡の教育員会は、英語教育のカリキュラムの見直しに際し、この小説を授業で取り上げる場合には細心の注意を払うよう、各校の校長及び英語担当主任宛の通知を行った。
小説の舞台は米アラバマ州の小さな町。この町の白人弁護士の娘の視点で物語は語られている。ここで起こった白人女性暴行事件の犯人として捕らえられ、無実の罪を着せられた黒人男性の弁護を、この白人弁護士が担当することになる。白人陪審員の偏見などもあり、弁護士の奮闘むなしく有罪が決定するのだが、これらが全て白人の家族の視点で描かれている。
しばしばこの点が問題になり、今回のピール郡教育委員会の通知も、この点を指摘している。通知は教師に対し、この小説では白人作家によって人種差別がどのように描かれ、また人種差別を受けた側の視点がどのように抜け落ちているかという点に注意を向かせ、授業を行う必要性を喚起している。
アフリカ系カナダ人の詩人ジョージ・エリオット・クラークさんは、人種差別の教材となる題材は、抑圧された側が主人公であるべきだと指摘する。また中華系カナダ人作家ウェイソン・チョイさんも、人種差別は『アラバマ物語』が大ヒットした50年前とは異なった視点で語られていると、同教育委員会の通知に賛同していた。