2018年8月30日 第35号

 ヌナブト準州の州都イカルイトに24日、カナダ最北端となるビール醸造所と、併設パブがオープンした。

 この醸造所、ヌナブト・ブリューイング・カンパニーがある場所は、郊外を走るイカルイト・レーン沿いで、シルビア・グリンネル準州立公園へ向かう道路の交差点付近。パブのカウンター越しには醸造施設が見渡せ、働く人の様子や醸造過程のビールのにおいなども味わうこともできる。ゼネラルマネジャーのケイティ・バーボワさんはメディアの取材に対して、とても居心地がいい場所だと語っている。

 ここで味わえる工場直送の生ビールは、オーロラにインスピレーションを得たというラガー『フロー・エッジ(Floe Edge)』、ブリティッシュ・ゴールデン・エールの『フロッブ・ゴールド(Frob Gold)』、アイリッシュ・レッド・エールの『アウパクトック(Aupaqtuq、地元のイヌクティトゥット語で「赤」を意味する)』、『セレブレーション・エール』の4種類。

 この場所では飲食店営業の許可が下りないため、パブでは地元のケータリング会社からシャルキュトリー(フランス風ハムやソーセージなどの、肉総菜)やプレッツェル、北極イワナなどの料理を取り寄せ、提供している。

 醸造所の設立には、紆余曲折があった。ビールの醸造には大量の水が必要となるが、イカルイト市では、地元企業が利用できる上水道の量を1日当たり2千リットルに制限している。同市は上水道の水源を、市の北側にあるジェラルディン湖に頼っているが、最近水位が下がり始め、将来の水不足が懸念されるようになってきた。

 しかしビール醸造にはこの配給分では足りないため、ヌナブト・ブリューイングでは上限の引き上げを申請していた。ところが7月、事業主が個別に上下水道の追加利用を可能にする条例案は、却下されてしまった。

 それが今月になり、2千リットル以上を必要とする事業主には、給水車で追加分を配給することが市議会で可決され、ようやく同ブリューイングの開業にめどがついた。こうした困難を乗り越えてきたバーボワさんは、前だけを見つめて進んでいくと、取材に語っている。

 「ヌナブト・ブリューイングは現時点でカナダ最北の醸造所。また環境に対する企業責任でも業界内のリーダー役を担う高い目標を掲げている」とバーボワさん。同ブリューイングでは、醸造過程で発生する二酸化炭素の一部を回収、それをプロセスの最終段階で行われる炭酸注入過程に使用している。イカルイト市内のレストランへのビールの提供は瓶で行われ、もちろん同ブリューイングが回収・再利用される。

 また秋には缶にビールを詰める機械も設置される予定で、缶ビールの製造が始まれば、イカルイト市内の酒類販売店でもヌナブト・ブリューイングのビールが購入できるようになる。ヌナブト準州以外の人は残念ながら、ここまで足を運ばなければ最北のビールの味を楽しむことは当面の間、できないようだ。

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。