2018年8月16日 第33号

 ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー島ビクトリア空港の東側、ジョージア海峡に浮かぶ米ワシントン州ヘンリー島のケレット・ブラフ沖で7月24日、生後間もなく死んだシャチの子供を、沈まないように鼻や口を使って海面に浮かせ続けている母親シャチが確認された。

 この母親シャチは、北米西海岸のシャチの群れの一つである南部定住型シャチ(southern resident killer whale)の一頭で、研究グループからはJ35と呼ばれている。ヘンリー島の隣のサンファン島にある、クジラ類研究センターのケン・バルコムさんによると、母親シャチのこの行動は、最初のうちは息ができるようにして子の蘇生を試みるものだったが、やがて母親にもその可能性がないと分かった頃からは、いわゆる葬送の儀式のようなものになっていったと、取材に説明している。

 しかし、J35が研究者やメディアを驚かせたのは、彼女がこの儀式を終わらせる気配を全く見せなかったことだった。研究者らがこれまでに確認していた儀式は、せいぜい何時間か、長くとも1日程度のものだったと、バルコムさん。

 ところがこの母親シャチは、1週間を過ぎても子を海面上に留め続けていた。この間彼女は十分なエサも取らず、明らかに体重が減少している様子が見て取られ、見守る研究者からは胸が張り裂けるようだとの声も聞かれていた。

 そんなJ35がついに、子の亡骸を手放したのが11日、確認された。この17日間、彼女は亡骸と約1600キロに及ぶ『悲しみの旅』を続けてきたが、ついに子に別れを告げ、彼女の別の子供のシャチや仲間とともに、サケの群れを追い始めるようになっていた。また研究者らは、彼女の健康状態も良好であることを確認した。

 その数が減り続けている南部定住型シャチの群れは、現在75頭が確認されている。このグループはキングサーモンを主食としているが、近年のサケの減少に伴い、シャチの健康状態も悪化していると、40年以上シャチの研究を続けているバルコムさんは語る。このグループではここ3年間、死産が続き個体数を増やせないでいる。

 

 

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