2018年5月17日 第20号

 マニトバ州ウィニペグ大学の歴史家が、カナダのジャンクフードに関する調査を行い、論文として発表した。

 カナダにも以前はポテトチップスやキャンディなど独自のブランドが多く存在していたが、そのほとんどが消え去っていった。論文は、そうしたブランドの歴史のほか、多くの人がカナダのオリジナルと信じている商品に、実は複雑な背景があることなどを解説している。

 キャンディ以外で最も有名なカナダ独自のスナック菓子といえば、多くの人がチージー(Cheezies)を思い浮かべるだろう。食品大手ペプシコ傘下のフリトレーが販売しているチートス(Cheetos)と同じような、きついオレンジ色と強い塩味のスナック菓子だが、チートスとの大きな違いは、チージーのほうがはるかに固く、形も色も不ぞろいということ。

 このスナック菓子を製造しているのは、オンタリオ州ベルビルにあるW・T・ホーキンス社。1949年にオンタリオ州で生産が始まったこの商品のアイデアを思いついたのは、同社工場の社員。工場に新しく導入された機械で生産されていた家畜飼料用のコーンミールが機械から出てくる様子を見ていた時に、これを油で揚げてチェダーチーズをまぶせば、おいしいスナック菓子になるのではないかとひらめいたという。

 今では純粋なカナダの企業であるW・T・ホーキンス社だが、論文を書いたジャニス・ティーセンさんの詳しい説明によれば、この会社はもともと米イリノイ州シカゴに本社を置いていた大手スナック製造会社のカナダ支社だった。それが分裂騒動や倒産、全米トラック運転手組合を介したマフィアの影響など、紆余曲折を経てカナダ企業として独立することになる。

 現在でも創業者の子孫が所有しているホーキンス社だが、スナック菓子業界の中にあって異例なのは、商品の宣伝を一切していないこと。また1956年から操業を開始した現在の工場にも、社名などの看板が全くない。

 普段は部外者が入れない工場の見学を許可されたティーセンさんは、勤続40年以上の従業員も珍しくない、愛社精神にあふれる職場を目の当たりにし、「ビジネススクールで教える企業モデルに取り上げられてもおかしくない会社だ」と評している。

 カナダ西部におけるチージーの販売は、マニトバ州ウィニペグが本社のオールド・ダッチ・フーズが行っている。同社は同名のポテトチップスで有名だが、多くの人が純粋なカナダ企業と信じている同社も、その実態はもっと複雑だとティーセンさん。

 オールド・ダッチ・フーズは組織上、米ミネソタ州ローズビルの同名企業のカナダ支社である。しかし実際のビジネスを見ると、その70パーセントがカナダ側で行われており、カナダ側が主導権を握っている会社といえる。オールド・ダッチ・カナダは主にカナダ産のジャガイモとカナダ産カノーラオイルを用い、カナダの工場でポテトチップスを生産している。

 また面白いのは、同社のポテトチップスのフレーバーについて、カナダ側と米側では違いが見られること。カナダでは全般にビネガー味や、ディル・ピクルス味と言ったあまり一般的ではない味が好まれている。一方米側では、サワークリーム・アンド・オニオン味がうけるという。その理由は、カナダ人がもともとフレンチフライにビネガーをかける風習があったためだとか、それぞれの地域の移民の出身地の違い(カナダ西部は東ヨーロッパ、ミネソタはスカンジナビア諸国)であるとか、諸説ある。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。