2018年3月15日 第11号

 アルバータ州エドモントン市の広場で弾いたピアノの動画がもとで話題となったホームレスの男性が2日、市内の支援ホームで静かに息を引き取った。

 路上のピアノマンと呼ばれ、その動画が1100万回以上再生されたのは、アレキサンダー先住民のライアン・アーカンさん(享年46歳)。8歳の時に里親家族に引き取られたアーカンさんは、その家のベースメントで初めてピアノに触れた。すっかりピアノに魅了されたアーカンさんは、時間があればいつでもピアノを弾いていたという。彼と仲の良かったいとこのカリー・ロックウッドさんは、当時のアーカンさんはどもり気味だったが、歌う時にはそんなことがなかったと、当時を振り返る。また別のいとこクリス・イエローバードさんは、アーカンさんは音楽的才能に恵まれた家系に生まれたが、その音楽に対する情熱は子供のころから少しも衰えたことがなかったと話している。

 しかしアーカンさんは20代でアルコール依存症となり、刑務所、病院、そして路上の行き来を繰り返す生活となった。

 2014年、そんなアーカンさんが同市中心部のチャーチル広場で自作の曲をピアノで弾いていたところ、その美しさに感動したロズリン・ポラードさんがその演奏を動画に収め、本人の許可を得てインターネット上で公開した。以来、アーカンさんは路上のピアニストとして一躍有名となった。

 このことがきっかけとなり、アーカンさんは市中心部の支援ホーム、アンブローズ・プレースに入居することができた。またポラードさんが動画を通じて募った寄付金でピアノを購入、彼にプレゼントした。「これで好きな時にピアノが弾けるし、作曲もできる。これがやりたかったことだ」と、アーカンさんは自分のピアノを前に語っていた。

 しかしそんな環境の変化も、彼のアルコール依存症や精神疾患を変えることはできなかった。彼は相変わらず、支援ホームと路上を行き来する生活に戻った。彼は時々聖ジョセフ大聖堂を訪れていたが、同教会のクリス・シュミット准牧師によると、アーカンさんは教会では音楽ではなく、聖書について話をしたがっていたという。また彼が聖書について博識なことに准牧師は感心させられ、「酔っていない時の彼が見せた信仰心は、私を謙虚にさせた」と語っている。しかし酔って教会業務を妨害することが重なり、ついには出入り禁止となってしまう。

 そんな彼に、更生プログラムを提供してきたボイル・ストリート・コミュニティ・サービスのジャード・トゥカチャックさんは、彼は不屈の精神を持っていたと語っている。トラウマや痛み、進行性の機能障害や精神疾患など、多くの問題からアルコールや薬物に依存するようになったが、更生プログラムを諦めることはなかったと語っている。

 支援ホームで静かに息を引き取ったアーカンさん。彼を知る人は皆、音楽抜きには彼のことを語れないと話している。「それは単にピアノがうまいとかということではなく、彼の演奏から伝わってくる優しさによるもの。彼の演奏を聞けば、音楽が彼にとってどれだけの意味を持ち、また彼がどれだけ音楽と共に生きてきたかがわかる」と、トゥカチャックさんは取材に語っていた。

 

 

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