2017年10月5日 第40号

 連邦新民主党(NDP)党首に、オンタリオ州議会ジャグミート・シング・オンタリオ州議員が決定した。連邦政府の3大政党で白人以外の党首就任はカナダ史上初めて。

 NDPは10月1日、党首を決定する1回目の投票を実施。これで過半数を取った候補がいれば決定、いなければ最下位の候補が脱落し、2回目の投票が行われるはずだった。

 開票前の大方の予想では1回目では決まらないだろうとされていた。そのため、投票結果発表会場も連邦政党の党首選にしては小さく、トーマス・マルケア前党首も出席していなかった。

 しかし開票結果は、53・8パーセントを獲得したシング議員の圧勝。2位はチャーリー・アンガス議員(オンタリオ州)で19・4パーセント、3位ニッキー・アシュトン議員(マニトバ州)17・4パーセント、最下位はガイ・カロン議員(ケベック州)9・4パーセントだった。3議員はNDP国会議員。

 党首選は、シング議員とアンガス議員の接戦になるのではと予想されていたが、想定外の結果となった。

 シング議員は両親がインド出身のインド系カナダ人。シーク教徒で頭に巻くカラフルなターバンと長いひげが特長。非白人というだけではなく、特定の宗教であることが明らかな人物をNDPが党首として第1回投票で選んだ意味は大きい。

 実際、選挙期間中には、シーク教の出で立ちが党首にふさわしくないのではと、同党ケベック州議員や党員から批判が出たほどで、特にケベック州での批判が目立った。

 しかしシング議員は宗教の自由は認められているし、そうした人物が党首になることでNDPの民主的な特徴がより明らかになると多人種、多文化を強みとすることを強調して戦った。

 結果、ケベック州でも多くの支持を得ている。NDPが次期国政選挙で議席を伸ばすためにはケベック州が重要なカギを握るとされている。2011年の選挙ではケベック州で大勝して野党第2党になった。2015年では逆にケベック州で議席を取れず、野党第2党に転落。その結果を受けてマルケア党首の交代が決まり、今回の党首選となった。

 今回の党首選でシング議員が圧勝したことで、カナダの政治勢力図が大きく変わるのではと期待されている。

 地元オンタリオ州はもちろん、ブリティッシュ・コロンビア州での支持も高い。一つには国内最大のシーク教コミュニティがあることが理由だが、シング議員はBC州にも選挙事務所を構えていた。BC州選挙区選出のNDP議員の支持も取り付け、BC州でも期待されている。同じシーク教徒のBC州ウジャル・ドサンジ元州首相は「ようやくこの日が来た」と喜んだ。同BC州政府ハリー・ベインズ労働相は、今回のシング党首誕生はインド系だけにとどまらず、カナダ国民全体にとって非常に大きいと語っている。「シーク系首相誕生もあり得るかも」とも期待した。

 オンタリオ州スカーボロー生まれ、2011年オンタリオ州議会議員にブラマリ‐ゴア‐マルトン選挙区からNDP候補として立候補し初当選。初のターバンを巻いた議員として注目された。政界入りする前は刑事訴訟被告人弁護士。当選後は、弱い立場の少数派民族を守るための法整備に尽力。2015年にはオンタリオNDP副党首に就任している。

 現在もオンタリオ州議員のため、今後は手続きに従って議員辞職手続きをする。国会議員には2019年の総選挙までに補欠選挙があれば立候補する考えを示しているが、焦ってはいないという。「国会に議席がないことは特に気にしていない」とシング議員。「これまでにも、ジャック・レイトン元党首のように、党首に就任してすぐには議席がなくても党をうまく導いた党首はいるし、これを国民の声を聞く機会にしたい」と、全国ツアーのようなものを計画していると語った。

 これで連邦政府の3大政党党首が全て揃った。今回NDP党首に決まったシング党首は38歳。5月に決まった保守党アンドリュー・シア党首も38歳。自由党ジャスティン・トルドー首相が45歳の最年長と党首が一気に若返った。2019年次期選挙時の党首の平均年齢は43歳となる。

 シング党首は次期選挙でのNDP復活を目標にしている。シング党首が掲げるNDPの重要公約は、不公平性の是正、環境対策、先住民族との和解、選挙制度改革の4本柱。現在の議席数は338議席中44議席。専門家は中道左派の自由党と議席を奪い合うのではないかとみている。連邦政治に吹いた新しい風に注目が集まっている。

 

 

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