オンタリオ州ブロックビルに住むクリス・ミニーニさんの父親は、肺がんと闘っていたが4月28日に、ブロックビルからは約70キロメートル離れた同州キングストンの総合病院に入院した。

 それから程なくして、今度は母親が心臓まひに倒れ、地元ブロックビルの病院に入院する事態となった。ミニーニさん兄弟は車を運転しないため、両親の面倒を見るために離れたふたつの病院を行き来するのは大変だった。そこで母親をキングストン総合病院に移そうとしたが、当初誰も協力的ではなかったという。

 しかし5月3日になって、父親の主治医が自ら、母親をこの病院で受け入れる準備をすると申し出てきた。「今から思えば、その意味するところを十分理解するべきだった」とミニーニさんは取材に答えているが、この時は主治医の対応に大いに喜んだミニーニさん。後から知らされたことだが、この時ミニーニさんの父親には、気管を塞ぐ大きな腫瘍が発生していたという。また本人は、避けられない事態をただ先延ばしするようなことはしたくないと、延命治療を拒否する書類にサインもしていた。

 病院でも物静かで落ち着いていた父親だったが、母親が心臓まひを起こし、この病院にいると告げられた時には大粒の涙を止めることができなかった。「父は、臨終を迎える自分より、母のことを気に掛けていた」とミニーニさん。

 4日、最後の別れのために集中治療室に集まった家族の前で父親は、必死に紙に文字を書こうとしていた。ようやく『mom』と書き終えた父親に、主治医はここに母親を連れてこようと告げた。その時の輝いた父親の顔は、まるで明日はサンタクロースが来るよと告げられた子供のようだったと、ミニーニさんは語っている。

 その時、母親は鎮静剤を打たれており意識はなかったが、隣り合ったベッドで手をしっかりと握りあった2人の姿を見守るのは、人生の中で最もつらかったとともに、最も素晴らしい瞬間でもあったと、ミニーニさんは話している。

 その数時間後、父親は静かに息を引き取った。

 

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