ケベック州モントリオールで路上生活を送るマーク・ランディさんは、毎朝地下鉄の駅の構内でバイオリンを演奏して、通勤客を送り出すことが日課となっていた。

 そんな彼が17歳の時から愛用していたバイオリンが12日未明、彼が寝ている間に何者かによって持ち去られた。彼の唯一の喜びであるとともに、生計を支える道具でもあったバイオリンを失った彼は、すぐさまダンボールにそのことを書いて道行く人に知らせるとともに、空のコップで新しいバイオリンを購入するための資金を集め始めた。

 そんなランディさんの姿を見かけたひとりが、その姿をフェイスブックに投稿、誰か彼にあげられるようなバイオリンを持っていないか、と書き込んだ。そして、この投稿を目にしたモントリオール・メトロポリタン管弦楽団の関係者が、このことをCEOのジャン・R・デュプレさんに知らせた。

 「この投稿に心を動かされた」と、デュプレさんはメディアの電話取材に答えている。自分の情熱を伝える唯一の手段を奪われたランディさんのために、デュプレさんはすぐさまバイオリン製作店の友人に電話をした。

 相談を受けた製作店メゾン・ドゥ・ビオロンは、新品のバイオリンと弓、ケースを原価で提供することを快諾した。

 デュプレさんは、彼が知るだけでもランディさんは6年か7年の間、地下鉄駅構内でバイオリンを演奏し続けてきたことを指摘、これは他人事ではないと語っている。またフェイスブックの投稿をデュプレさんに最初に知らせた楽団員フランシス・ラポンツさんも、ランディさんの人生に音楽を取り戻したかったと話している。

 一方、デュプレさんらがバイオリンの手配を進めていた頃、ランディさんは神がきっとバイオリンを何とかしてくれるはずだと自身に言い聞かせ、ひたすら祈っていたという。

 そしてその日の午後、デュプレさんは真新しいバイオリンを届けに、ランディさんのもとを訪れた。バイオリンを受け取ったランディさんは、自分はこれなしでは生きていけないと神に祈っていたところだと、目を輝かせながらデュプレさんに話し、早速バイオリンを弾き始めた。

 管弦楽団を率いる者として、また音楽愛好家として、ランディさんの気持ちは痛いほど分かると、デュプレさん。これは私たちだけではなく、音楽に携わる全ての人にとって特別な瞬間だったと取材に答えていた。

 

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