開花で街が彩られたこの季節、冬のスキーやスノーボードのことは考えられないかもしれない。しかし、この時期を狙って、日本からカナダにやって来るスノーボーダーたちがいる。

5月末までオープンしているブラッコム・スキー場には、ワールドクラスのテレインパークという施設がある。このテレインパークというのは、大きなジャンプ台、またレールやボックスと呼ばれる障害物などがあり、フリースタイル好きのスノーボーダーやスキーヤーがジャンプしたり、板を擦らせてトリックしながら楽しむところだ。大きなキッカー(ジャンプ台)では、25メートルプールを飛び越すほどの飛距離を出すことができる。 このようなパーク施設は、先のソチ五輪から新たな種目に加わったスロープスタイルと呼ばれるコースと同じような作りをしている。彼らは、2年後に迫った韓国で行われる平昌五輪に向けて、練習するために来ているのだ。

そんな中、日本でも注目の女性ライダー姉妹、佐藤夏生&亜耶がやって来た! SAJ(全日本スキー連盟)国内強化選手にも選ばれ、五輪代表を目指している二人だ。今回のカナダ自主練に来たテーマ、これからの展望など聞いた。

 

妹の亜耶さん(左)、夏生さん

 

Q:夏生さん(姉)は、ウィスラーで高校生活を送ったと聞いていますが、夏生さんにとってのウィスラーはどんな場所ですか?

夏生:安心できるところですね。ビレッジを歩いてもお友達のお母さんに会ったりして、リラックスできる環境です。私のスノーボードを上達させてくれた場所でもあります。  


Q:亜耶さん(妹)はお姉さんのように、カナダでスノーボードをしてみたいとかは考えたことがなかったのですか?

亜耶:いえ、全然。私は、日本にいたいなあと思うばっかりで(笑)。幼い頃、姉は活動的で親の知らないところでどんどんと友達を作っていったりしていましたが、私はどちらかというと親の後ろに隠れているようなタイプで。今でも日本にいる方が居心地が良いんです。  


Q:今回、カナダに来て練習のテーマに掲げていることは? 

夏生:全体的に苦手なトリックを克服すること。また新しいトリックにもチャレンジすることです。幸いこの時期はウィスラーとブラッコムの両山を利用できるので、まず、比較的に簡単なアイテムが揃うウィスラーで練習します。さらにブラッコムの大きなアイテムで、その応用をできるようにしています。

亜耶:私はアメリカ遠征中に大きなけがをしてしまったので、1月、2月にしっかりと滑れていません。だから、新たな気持ちでウィスラーで2度目のシーズンイン。なるべくたくさん滑るようにしています。  


Q:亜耶さんのけがは、かなり大変だったようですが、どんなものだったのですか?

亜耶:ジャンプで着地の際にうまく決められなくて、眼窩底骨折、また鼻の骨折も。

夏生:実際、亜耶はその時のことを覚えていないんですよ。私は見ていたのですが、着地の時にヒザが顔面に入ってしまって、それでぶっ倒れてしまったんです。すぐに私や友人が駆けつけました。亜耶は、そのアメリカ合宿中の内容も忘れるほどの重症でした。そして、それを見ていた私もしばらくは滑れなくなるほどショックでした。  


Q:ご両親が大変心配されたのでは?

夏生:はい。スノーボードを勧めた父は、もうスノーボードを辞めていいとまで言いました。

亜耶:だけど、私はどうしてもオリンピックに行きたかったので、いろいろな病院を回って、手術を回避できるところで治療を受けました。そして遂に病院の許可を受け、3月の全日本に出場し、表彰台に立ちました。表彰台に立つことは、ナショナルチーム入りの最低条件だったので、なんとかそれをクリアしたかったのです。  


Q:すごい根性ですね。現在、けがの方は大丈夫ですか?

亜耶:まだ完治していないので、用心が必要です。なるべく転倒して衝撃を受けないように気を付けています。


Q:日本を代表する女性ライダー姉妹として活躍されていますが、それぞれの良いところを挙げるとしたらどんなことでしょうか?

夏生:亜耶は、フリーランが抜群に速い。バンクドスラロームというスピードを争う競技では、国内では負けなし。新潟という雪国で育ったので、フリーラン技術は高いんです。

亜耶:なっちゃん(姉の夏生さん)は、カナダでプロとして活躍してきたから、ヨーロッパなど世界のどこにでも一人で行ってすごいなあと思います。海外のメディアのインタビューにもしっかりと受け応えられたり。そういった女性ライダーは現在いないので、個性的だと思います。また、なっちゃんは、1本1本の滑りでしっかりと考えて、テーマを見つけて上達しているので、そういったところも尊敬しています。

夏生:亜耶は逆に考えないで、突っ込めるところがすごいんです。私が考え過ぎてしまったりしているところで、亜耶がプッシュしてくれたりします。  


Q:現在、夏生さんの方は、就職が決まっていて、その会社の方ではスノーボードの練習時間にも非常に理解があり、五輪出場を応援していると聞いています。また、亜耶さんの方は早稲田大学に通いながらのスノーボード。共に仕事に学業、そしてスノーボードの両立は大変だと思いますが?

夏生:私はJOC(日本オリンピック協会)のアスナビ事業(※)の方に協力していただき、自分を企業に売り込むプレゼンテーションを作りました。何度かの企業とのマッチングを経て現在の就職先であるレカム株式会社に採用していただきました。冬のスポーツは陸上での競技と違い、練習をするとなると国内外の雪山に移動しなければならず、勤務時間が限られてしまうのですが、フレキシブルな対応を検討し採用していただき、とても感謝しています。
(※「アスナビ」は、企業と現役トップアスリートをマッチングする、JOCの就職支援制度。安心して競技に取り組める環境を望むトップアスリートと、彼らを採用し応援することで、社内に新たな活力が生まれることなどを期待する企業との間に、Win-Winの関係を築いていくことを目的としている)

亜耶:大学は、自分から通いたいと親にお願いしたので進学という選択は全く後悔していません。でも、もちろんオリンピックを目指しながら早稲田大学に通うことは楽ではありません。きっとどちらか1つを優先した方がいいこともあるかもしれないですが、私は大学を4年で卒業して、オリンピックも本気で目指して、それが実現できたときの達成感が楽しみで、今、頑張ることができています。


Q:最後にお二人の今後の目標を教えていただけますか?

亜耶:平昌オリンピックが1番近い目標ですが、もっと先のことを考えると、ひとりの人間として何か大きなことを成し遂げたいという思いでスノーボードをしています。

夏生:明確なのは平昌オリンピック。スノーボードの選手として、ひとりのスノーボーダーとして、ひとりの人間として誰かの役に立てる人材になれるように努力していきたいと思います。   

(取材 飯田 房貴)

 

華麗にジャンプを決める夏生さん。大会では、より大きなジャンプで高回転なトリックも求められる。常に危険と隣り合わせだ

 

細いレールの上に見事なバランス感覚で技を決める亜耶さん。大会ではジャンプだけでなく、こうしたジブと呼ばれるアイテムでも技を決める必要がある

 

国内のスピード競技でも大活躍する亜耶さん(右端)と夏生さん(右から3番目)。この日の優勝は亜耶さん(写真提供:佐藤夏生さん、亜耶さん)

 

ハイスクール在学中もカナダのプロ戦で活躍し続けた 夏生さん(写真提供:佐藤夏生さん、亜耶さん)

 

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