2020年3月19日 第12号

「日本語認知症サポート協会」は、2017年2月にブリティッシュ・コロンビア州で設立された「非営利法人団体」で、メトロバンクーバーにおいて認知症についての誤解や偏見をなくし、認知症の方が安心して暮らせる社会作りを目指し活動している。今回は協会の皆さんに2019年に開催したイベントを振り返りながら、運営について今後の抱負などを聞かせてもらった。

 

日本語認知症サポート協会のメンバー。左から、福島誉子さん、辻奈緒子さん、ガーリック康子さん

 

2019年の活動内容

おれんじカフェ(バンクーバー・リッチモンド)

 認知症をテーマにした情報交換の場。認知症の家族や友人のいる人、本人はもちろん、認知症について知りたいという人、だれでも参加が可能。

「おれんじカフェ・ バンクーバー」

 年10回開催している「日本語認知症サポート協会」の基本活動。

 2019年の平均参加者数 は25人。2018年は平均12人程度だったことからも「おれんじカフェ・バンクーバー」の活動は定着したように感じています。現在、「おれんじカフェ・バンクーバー」にご参加くださる皆様は、ほとんどの方が認知症になりたくないとおっしゃる、認知機能低下が見られない健康的な生活を送られているシニアの方々。『皆様の為の、皆様と共に』をスローガンに、今年もこの基本活動を主軸に地道な努力を重ねていきたいと思っています。

「おれんじカフェ・ リッチモンド」

 年2回、バンクーバー地区で開催した「おれんじカフェ」の中で、リッチモンド地区に有益な話題を選び、開催しています。昨年、レギュラー「おれんじカフェ・リッチモンド」は「アルツハイマー協会のサービス」と事前指示書についての「ノータリーCafe」を開催。わざわざバンクーバーまで足をお運び頂けない方々に好評を博しました。今年も2回程開催を計画しています。

「おれんじカフェde 看取りーと」

 人生の最期の時を、どこで、どのように、誰と迎えたいかを考える「看取り」をテーマにした「おれんじカフェ」。後援「一般社団法人日本看取り士会」、協力「看取り士会・カナダ」のご尽力の下、2018年より、バンクーバー、日本で詩人として活躍されている高山宙丸さんとのコラボで、年一回、生きている限り私たちに平等に訪れる「自分の最期」、「大切な人の最期」について 『ゆる〜く』、『あかる〜く』話し合う場を提供。

 「なぜ『日本語認知症サポート協会』で?」と思われる方も多いと思います。病はいつ私たちに忍び寄って来るかわからない。元気なうちに、認知機能が落ちる前に、皆さんと今までタブー視化されていた「最期の時」を話し合い、「終活」、「アドバンスケアープランニング」、「エンディングノート」といった最期の準備の意識改革に繋がればと、また、人生の「最期」を見つめることは、「今」をより輝かして生きること! との思いから、当協会では年間行事に組み込んでいます。
※「おれんじカフェde看取りーと」のルール等は、当紙2019年10月3日第40号に掲載しています(以下、紙面の案内があった際の発行年はすべて2019年)。

注文をまちがえるおれんじカフェ

 ホールで働く人みんなが認知症の「注文を間違える料理店」。日本で始まったイベントをバンクーバーでも「おれんじカフェ」の新しい形態として2019年10月5日に実施。

 カフェの開催にあたり、ホールスタッフとしてお手伝いしてくださる方がなかなか見つからず、一時は中止も考えましたが、最後の最後に、やっとお一人お手伝いいただく方が見つかり、規模を縮小して、何とか開催に漕ぎ着けました。

 不思議なことに、当日会場としてお借りしていたスペースに、準備のためにスタッフ&ボランティアさんが集まり、ユニフォームにと作ったTシャツに着替え、役割分担作業に取り組んだ頃から、会場の雰囲気が変わってきました。最後、食卓に花を飾る頃には、何とも温かい、家庭的な雰囲気のレストランに早変わり!ホールスタッフの方には、有償ボランティアとしてお手伝いいただいています。
※内容は、当紙10月24日第43号の「Hello! COMMUNITY」にも掲載。

エンディングノートを題材にしたイベント

 2019年は、新しい試みとして、5月と6月に「エンディングノート」の題材を 『イベント1』と『イベント2』に分けて計画。イベント1「エンディングノート」映画上映会+生田開教使 (スティーブストン仏教会) の講和「もうこりた」。イベント2「もしもの時に役立つノート〜エンディングノートWorkshop〜」をスティーブストン仏教会と共同主催。『イベント1』には約100人、『イベント2』は約85人の方が参加。皆さんの『終活』 に関する関心度も高く、盛況のイベントでした。
※『イベント1』の内容は、当紙5月16日 第20号の「Hello! COMMUNITY」にも掲載。 ※『イベント2』の内容は、当紙6月20日第25号にも掲載。

「ぼけますから、よろしくお願いします。」 上映会

 昨年9月には、認知症ドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」上映会をバンクーバーとリッチモンドで開催。幸運なことに、バンクーバーでの開催日(9月21日)は「国際アルツハイマーデー」と重なり、この日、ご観賞の皆様とご一緒に「認知症」に思いを寄せることができたことは、この映画上映会に携わった関係者一同、とてもうれしいことでした。バンクーバーでは約190人の方が、リッチモンドでは約160人の方に観賞いただきました。この上映会は、「日本語認知症サポート協会」の存在を広く多くの方に知っていただく、良い機会となりました。
※内容は、当紙10月3日第40号の「Hello! COMMUNITY」にも掲載。

2019年に見えてきた課題について

 イベント数が増えても、最も参加していただきたい認知症の方の参加数は、伸び悩んでいるのが現状です。特に「注文をまちがえるおれんじカフェ」では、認知症の方にホールスタッフとしてお手伝いしていただくことで、認知症に対する誤解から、認知症と診断された後、社会から隔離されてしまう現実を変える一歩になることを目標としています。 しかし、スタッフ募集には、当初考えていた以上に苦心しています。残念ながら、これは自分自身や家族が認知症であることをあえて公表しない、または公表できない風潮の現れであり、世の中の誤解や偏見の裏返しと受け取ることができます。なんとかこの現状打破を目指し、将来的には、当協会の代名詞となるイベント「注文をまちがえるおれんじカフェ」に育てていければと切に願っています。

 終わってしまえば笑い話ですが、ドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」上映会当日を迎えるに当たり、協会メンバーは、生きた心地がしない数日を過ごしました。早くから依頼していた、今回のドキュメンタリー映画監督であり、主人公ご夫妻のお嬢様でもある信友直子監督の「ビデオレター」が届かず、肝を冷やしました。こちらで、英語字幕をつけることになっていましたが、それに費やす時間も考えると完全に間に合わない状況に陥ったのです。「ビデオレター」が日本から届いたのが、上映日の3日前。英語字幕が付いたのが、上映日前日の深夜でした。本当に皆様のこの映画上映にかける熱い想いが、ミラクルとなったとしか考えられない!ことが起こり、お陰様で、上映会当日に間に合った次第でした。時差、日本の祝日等、考えて対応をしたつもりでしたが、やはり国を隔てての対応の難しさを思い知りました。

引き続き協会が目指すもの

 「石の上にも三年」とよく言われますが、お陰様で、今年2月に設立から丸3年を迎え、非営利団体「日本語認知症サポート協会」としての活動&知名度は定着してきました。当協会の主軸活動「おれんじカフェ・バンクーバー」も、時に小さなハプニングはあるものの、スムーズに行えるようになってきました。また、ありがたいことに講師の方々も講演依頼に快く応じてくださっています。この場を借りて御礼申し上げます。昨年までは、協会の土台固めに突っ走ってきましたが、ここにきて、さらに当協会のことをよく知 っていただき、今後も息の長い活動を続けていく上で、協会の運営面で新たな選択が必要な時期にきていると感じています。

 協会が行うイベントには、ボランティアの方々にお手伝いをお願いしていますが、運営そのものは全て3人の協会メンバーが行っています。それぞれが各々の仕事を持ちながら運営に携わるメンバーにとって、自分たちだけでは手が回らないと感じることが増え、現在の状態では、遅かれ早かれ、協会の運営が立ち行かなくなるのでは?!との危機感を抱いています。活動を支援してくださるボランティアの方々の数を増やすとともに、協会の活動の幅を広げ、大きくしていく上でも、運営に関して各分野の専門家にご協力をお願いする必要性も強く感じています。

 地域のグループとの協力も大切な活動の一貫と考え、第一歩としては、「アルツハイマー・カフェ・バンクーバー」との協力が始まっています。(20年以上前にオランダで始まった「アルツハイマー・カフェ」のコンセプトに則り、ヨーロッパ各国だけでなく、カナダでも定期的に行われています。)また、 UBC(ブリティッシュコロンビア大学)が主導する研究グループが昨年から行っている、認知症患者と地域社会との繋がりに関するプロジェクトにも、地域のコミュニティーに根ざした団体として、関わっていく予定で話を進めています。

 今年、当協会が主催する「国際アルツハイマーデー」のイベントとしては、カナダで10年に渡り救急救命士(Paramedic)として活躍されている方を講師にお招きし、特別イベントを計画しています。また、「看取り」を大きなテーマとする「おれんじカフェde看取りーと」も、例年の開催日が「国際アルツハイマーデー」と重なるため、違った趣向でお届けできればとメンバーで企画会議を始めました。ご期待ください。

 また、 今一度、初心に返り、認知症についての啓発活動を続けながら、より多くの認知症の方とそのご家族をサポートできる組織作りの必要性を強く感じています。最後に非営利団体の常で、当協会もご多分に漏れず、資金調達が大きな悩みのひとつです。限られた財源で効率的に活動をしていくために、協会の運営形態を変えることが必然ではないかと考え、今年中の設立を目指し、もう一つの「非営利慈善団体」登録申請を行なっています。設立時からの目標でもあります、当協会のボランティアの方々に、「有償ボランティア」としてご奉仕いただける日が、一日も早く訪れるよう協会員一同努力する所存です。今後とも、皆様のご協力&ご支援の程よろしくお願い致します。

 

お知らせ

ボランティア募集
 「日本語認知症サポート協会」では、協会の活動に、ボランティアとして協力してくいただける方を募集しています。イベント開催時のサポートや、事務、会計、広報、webマーケティングなど、組織運営のお手伝いをお願いできればと思っています。

「注文をまちがえるおれんじカフェ」 有償ボランティア募集
 昨年、開催した認知症啓発イベント「注文をまちがえるおれんじカフェ」を、今年も計画しています。認知症と診断されている方で、カフェでの注文取りや配膳のお手伝いをしていただける方を募集しています。有償ボランティア(最低賃金支給)として参加していただく企画です。ご興味のある方、下記のメールアドレスまでご一報ください。

日本語認知症サポート協会
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www.japanesedementiasupport.com

(取材協力 日本語認知症サポート協会)

 

おれんじカフェバンクーバー「『アート・セラピー』で脳の活性化-アート活動で脳の調子を整えよう」 (2019年8月1日開催、以下イベントの開催年は2019年)

 

おれんじカフェ・リッチモンド「『ノータリーCafe①』行列がまだ出来ていない法律相談」 (11月10日開催)

 

「注文を間違えるおれんじカフェ」at Greens ご注文はいかがいたしましょう?(10月5日開催)

 

「第一回注文を間違えるおれんじカフェ」専属シェフ Sono Ray さん

 

「映画上映会『エンディングノート』生田開教使の講話『もうこりた』」(5月5日開催)

 

「もしもの時に役立つノート~エンディングノートWorkshop~」(6月9日開催)

 

「ぼけますから、よろしくお願いします。」at Vancity Theatre(9月21日開催)。 信友監督ご家族に映画の感想をカードにしたためてお届け

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。