2020年2月6日 第6号
1月20日、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市のUBCロブソンスクエアで、企友会と懇話会が共催する新春懇談会が開かれた。これに先立ち企友会の年次総会も開催され、活動・会計報告等が発表された。今年度から企友会会長に谷口明夫さんが就任したほか、理事の交代もあった。懇談会では、石川征幸在バンクーバー日本国領事と、三菱マテリアル(株)バンクーバー事務所長の田村耕造氏がそれぞれ講演、約40人の出席者が熱心に耳を傾けていた。ここに概要を紹介する。
質疑応答も活発に行われた懇談会
「カナダ・BC州経済情勢」
石川征幸在バンクーバー日本国領事経済統計から見る経済情勢
カナダ自由党は2019年の連邦下院議員選挙で少数政権となった。現在トルドー首相は、個別の案件ごとに他の党と協力して政策を実施していく模様である。一方、BC州では2017年の州議会議員選挙で新民主党(NDP)がグリーン党と連携して政権を担うことになったが、これまでのところ比較的安定した政権運営がおこなわれているといえる。
続いてカナダや他国の経済成長率(実質GDP)の推移を見ていく。IMFによれば、日本、中国、米国の経済成長率は2018年から2020年にかけて若干下落傾向にあるが、カナダは2019年から2020年には若干上向きとなると予測している。カナダ統計局によれば、カナダ各州の経済成長率は国全体のものと同様の動きをしているが、BC州の経済成長率はカナダの国全体のものより若干高く、各州の中でも比較的堅調であるといえる。
カナダの輸出に占める米国の割合は全体の約4分の3であり、対米依存度が非常に高いのが特徴的だ。カナダの輸出に占める中国の割合は5%で日本の割合は2%となっている。カナダの輸入に占める米国の割合は全体の半分ほどである。カナダの輸入に占める中国の割合は13%で日本の割合は3%となっている。中国と比較しても、カナダの輸入に占める日本の割合はそれほど多くはないため、総領事館としても日本からカナダへの輸出を積極的に支援していきたいとの考えだ。カナダ各州から全世界向け輸出のうち、最も輸出額が多いのはオンタリオ州であり、全州の約4割を占める。全世界向けには米国が含まれるので、米国北西部との経済的結びつきが強いためと考えられる。また、カナダ各州から全世界向け輸出に占めるBC州の割合は全州の約1割と小さい。しかしカナダ各州から日本向け輸出に占めるBC州の割合は全州の約4割を占めており、やはりBC州、バンクーバーはアジアへのゲートウェイといえる。
BC州の主要産業
BC州統計局によれば、BC州から全世界向け輸出の3割は木材やパルプだ。そしてエネルギー(石炭、天然ガス等)、鉱業(銅、アルミニウム、亜鉛等)、農水産物(野菜、穀類、食肉、魚介等)が続く。BC州から日本向けの輸出は約4割がエネルギー(石炭等)であるが、今後天然ガスの輸出が始まれば、+この割合が増加することが予想される。
BC州の主要産業である森林産業は、近年多くの製材工場が閉鎖という困難に直面している。過去に松食い虫の被害があり、被害拡大防止のために多くの木材が伐採されたが、近年は伐採量が減少し、原木の需要が上がってコスト増となったことや、米国との針葉樹製材協定失効後の米国による関税措置の影響もある。BC州では対米依存脱却を図るため、ドナルドソン森林大臣が、トップセールスでBC州産木材を日本などアジア諸国にアピールしている。
また2018年12月に、包括的・先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)が発効した。カナダは日本への農産物の輸出に高い期待をかけているのと同様に、日本にとっても農産物の輸出拡大の大きなチャンスである。エネルギー産業については、2018年にLNGカナダプロジェクトへの最終投資決定が発表された。これはBC州北部で産出された天然ガスを、キティマットの港から日本を含むアジア諸国に輸出するというプロジェクトだ。また近年、BC州政府はIT産業に力を入れている。バンクーバーはデジタルメディア、ゲームといった産業の集積地となっており、日本のIT産業にとっても非常に魅力的な場所だ。バンクーバーは日本に近く、BC州政府がIT関係の起業家向けに優遇税制を講じたり、当地の有名な大学を卒業した優秀な人材を確保できるなどの利点もある。
日本とカナダの経済発展に向けて
昨年、日本の輸出促進イベントがいくつか開催された。日本からカナダへのりんごの輸出が解禁となったことを受けて、ビクトリア市と姉妹都市提携を結んでいる盛岡市長がバンクーバーとビクトリアを訪問、りんごの輸出促進のイベントを開催した。リッチモンド市と姉妹都市提携をしている和歌山市は、特産物商談会をリッチモンドで開催。ウィスラーと姉妹都市提携する軽井沢からは町長がバンクーバーとウィスラーを訪問し、観光促進イベントを開催した。また、日本酒造組合中央会とJETRO(日本貿易振興機構)が、バンクーバーで日本酒輸出促進イベントを開催した。JETROはまた、2018年と2019年にIT関連イベントをバンクーバーで開催している。その他、JNTO(日本政府観光局)もバンクーバーで観光イベントを開催するなど、さまざまな輸出、観光促進イベントがおこなわれている。
(注:講演で使用された統計資料は2018年および2019年のもの)
「海外生活を通して感じた日本人と日本語の美しさ」
田村耕造氏
三菱マテリアル株式会社バンクーバー事務所長
バンクーバービジネス懇話会副会長
海外に憧れて導かれた人生
田村氏は独断と偏見に満ちた講釈であると前置きした上で、海外生活を通して見えてきた日本人の性格や文化、日本語の美しさについて話した。
自身が幼少の頃は地方の生活レベルはまだまだ苦しく、大都市のレベルとは圧倒的に違う時代だったと思う。そんな田舎の環境が嫌で大学は絶対に大都市・東京にすると決めていた。憧れの東京生活が始まったものの、その4年間で東京が普通の街に思えてきた。次に海外への憧れが強くなってきた。そこで、毎日のように海外に行ける仕事だろうと思い、某航空会社の客室乗務員になることに絞って就職活動をしたものの失敗。かろうじて内定をもらった三菱マテリアル合併前の三菱鉱業セメントに入社した。海外とは全く無縁の環境に大きく落胆したが、会社生活の終わりが近づいたいま振り返ってみれば、オーストラリアで8年半、チリで4年、バンクーバーで1年半と、海外駐在期間を更新中。海外に出ることを夢見ていた自分を導いてくれた神様の存在を信じている。
海外生活をする前には見えてこなかったこと
日本人の性格の良さ、文化や言葉の美しさということは本当に素晴らしく、自身が日本人であることを誇りに思っている。嘘をつくこと、人をだますこと、人に迷惑をかけること、それらは悪いことである。悪いことはお天道様に見られており、将来必ずえんま様の裁きを受けることになるという恐怖によって、悪いことをしてはいけないということが子どもの頃から知らず知らずのうちに染みついているのは日本人だけではないだろうか。独裁者が恐怖でもって人民を押さえつけるとか、会社でパワハラ上司が部下を押さえつけるということも、恐怖をもって悪事への抑止力となることもある。しかし独裁者やパワハラ上司と、私が述べている日本人が知らず知らずのうちに持つ恐怖とは決定的に違う。前者の場合、自らが何かしらの行動を起こすか、救いを求めない限り逃げ場はない。後者の場合、恐怖から自分を守ってくれる両親や祖父母といった身近な人がいる。恐怖から守ってくれる家族がいる安心感がある中でも、悪いことをすると後で痛い目にあうのだということが染みつくのではないか。人のものを取るような悪事を働く人でも、盗みをされた人が困るだろうという罪悪感を持ち、どこかで躊躇するのが日本人だろうと思う。一方、他国では人のものを盗ったということが褒められることはさすがにないが、盗られた方も悪いといった考えもあるようだ。それぞれの国の事情はあるにせよ、日本人としては奇異奇怪に感じるのは否めない。
日本の文化と風習の美しさ
人に迷惑をかけないという心がけから発展したのが、人のことを考える思いやりの心ではないだろうか。相手がどうしたいのか、どう思っているのかを常に先に考えるのも、日本の文化と思われる。日本語にはそうした日本人の性格がよく表れている。主語や動詞が省かれた不完全なものであっても、会話が成り立つというのも日本語の特徴だ。
会話では直接的な表現を避けるということも独特だ。状況を判断し、相手が何をいわんとしているかを察することが求められる。また日本人は否定的なことに対し、Noという直接的な答えを避ける傾向もある。これは相手を敬う気持ちからなのだが、受け取る方は表情や口調などから真意をくみ取る必要が出てくる。日本と欧米の会社間の商談でも、提案に対してNoという代わりに「検討させていただきます」という表現が使われることもある。欧米の人々にとっては、こうした日本風の表現はもっとも理解しがたいものであるだろう。それでもこれは日本独自の美しいものであり、維持、継続させなくてはいけないと思う。世界レベルで見ると理解されがたい文化、風習でもあるのも確かだ。そこで、他国の風習や文化を熟知した人たちや海外経験豊かな人たちには、日本向けと海外向けの両方を使い分ける一方、日本人の性格、文化、風習を理解してもらうための努力を続けてもらいたいとも思う。
今の日本では残念ながら、こうした日本人の文化の美しさのかけらもないような事件などが起きている。こうした事件を起こす人たちは、お天道様が見ているとか、えんま様の裁きを受け、悪いことをしでかした人は必ず地獄に行くということを子どもの頃に学ばなかったのではないかと思えてならない。
石川征幸領事 プロフィール
1993年に通商産業省(現在の経済産業省)に入省、中小企業庁国際協力室の後、2018年6月に在バンクーバー日本国総領事館の経済担当領事として着任。
田村耕造氏 プロフィール
香川県高松市出身。1984年慶應義塾大学商学部を卒業後、三菱鉱業セメント(現在の三菱マテリアル株式会社)に入社。札幌支店、本店勤務を経て、豪州三菱マテリアル社取締役に就任、本店エネルギー営業部等を経て、チリ事務所長を務める。2018年9月に三菱マテリアル(株)バンクーバー事務所長に就任。
(取材 大島多紀子)
石川征幸在領事
田村耕造氏