2019年7月18日 第29号

日系文化センター・博物館事務局長のロジャー・レミレーさんが7月31日でフルタイムの現職を引退し、10月までは日系祭り、コミュニティー・アワード・ディナーの開催準備に関わるという。これまで政府との交渉、コミュニティーとの関与、そしてスタッフやボランティア管理など、広範囲で職務を全うしてきたレミレーさんに、これまでの活動を振り返ってもらった。

 

日系文化センター・博物館事務局長のロジャー・レミレーさん(撮影:Manto Artworks)

 

コミュニティーとの関わり

 リッチモンドで育ったカナダ人のロジャー・レミレーさんにとって、日系コミュニティーは無知のものではなかった。カナダ生まれの父と日本生まれの母を持つ日系3世のカレンさんと結婚し、カナダと日本の文化の中で3人の子供を育てあげた。

 前職ではマーケティング、メディア、ボランティア部門やコミュニティー関係のエグゼクティブ・リーダーとして、CTV、ベル・カナダ、ケロッグ・カナダ、バンクーバー・カナックス、バンクーバー・グリズリーズ、バンクーバー・ジャイアンツ、バンクーバー水族館の仕事に携わったほか、国際的なイベント・マネージメントの経験を持つ。それらの幅広い経験とコネクションを元に、2013年10月、現職をスタートした。

 

日系祭り

 「一番思い出に残る仕事は第2回めの日系祭りですね」

 2013年夏に始まった日系祭りは、ファンドレージング部門である日系プレース基金(NPF) が主催。翌年の夏、日系文化センター・博物館(以下、日系センター)の主催となり引き継いだレミレーさんは五明明子さん(当時日系センター理事、現理事長)とともに、ガーデンに屋台フードやビアガーデンを設置し、館内ロビーをキッズゲームゾーンにするなどして、日系祭りを現在の形に築いていった。また、サッカー選手の工藤壮人選手(当時バンクーバーホワイトキャップス所属)のサイン会を企画したりテレビ中継を入れたのも、レミレーさんのコネクションによる。

 こんなエピソードもあった。日系祭りの終盤にかけて、日系ホーム専用駐車場のゲートが壊れて半分しか開かなくなっていた。レミレーさんは数人と重い鉄のゲートを持ち上げ、まわりの人が怪我をしないように床におろした。油まみれのTシャツを着たレミレーさんが帰宅したとき、奥さんのカレンさんはどこで働いてきたの?と驚いたという。

 徐々に政府からの助成金やスポンサーシップを増やし、日系祭りは日系センターの主要ファンドレージングイベントとして確立。昨年は、過去最高の1万4千人の入場者を記録した。7回目を迎える日系祭りは、8月31日と9月1日に開催される。

 

政府との交渉

 築20年を迎えた建物の維持・修理改善には経費がかかる。加えてプログラム運営やスタッフの維持は、レンタル収入だけではやっていけない。事務局長の重要な仕事のひとつに政府との交渉、助成金申請、スポンサーや寄付者の維持と開拓がある。 「日系博物館(7月21日より名称改め:カラサワミュージアム)拡張工事や、倉庫を改築して武道場をオープンなど、助成金や寄付、ファンドレージングを通して施設の改善を行いました。財務の安定、対外関係の維持、カナダ国内における日系センターの位置づけなど、この仕事を通してたくさんの人と出会いました。日系センターでの6年間は、やりがいのある時間でした」

 

コミュニティーのメンバーとして

 2014年には、在バンクーバー日本国総領事館開設125周年のスピーカーシリーズの会場のひとつとして、また2015年にはバーナビー市と北海道の釧路市の姉妹都市50周年記念行事に参加するなど、政府の行事にも関与した。

 バーナビー市に慰安婦像設置の話が出たときは、日系センターに電話や問い合わせが殺到した。不安や感情的な雰囲気に包まれる中、話し合いの会場を提供し、最終的にバーナビー市長が像設置の判断を当面保留すると発表した。

 

プログラムの充実

 『体験プログラム』の参加者は年間約300人から約1500人に増加。この中には研修旅行でカナダを訪れる日本の高校生も含まれているが、ほとんどが近郊のハイスクール生である。

 「100年前、和歌山から移住した日本人が漁業から林業、農業へと携わっていった様子を写真と同時に体験者が紹介すると、とても興味を示してくれます。カナダの人たちに日系の文化と歴史を伝えるという目的を果たす、重要な教育プログラムとなっています」

 現在日系センターは、人気のマンガキャンプ、スペシャル・イベント、月間プログラムほか、結婚パーティー、文化行事のレンタルなど、幅広く利用されている。

 「助成金やスポンサーに頼らず、イベントを通したファンドレージングに力を入れました。先日、改築工事を終えてリニューアルしたカラサワミュージアムでは、これまでのドネーション制から入場料5ドル(日系センター会員は無料)を設定しました」

 チャールズ・カドタ・リソースセンターでは、学生や研究者のためにギャラリースペース、アーカイブ・エリアの拡張、資料のオンライン化、空調の改良も行った。日系シニアの高齢化とともに、守らなければならない日系カナダ人の歴史。重要書類、歴史物保存のために、博物館は重要な役割を果たしていることを、多くの人に知ってもらいたいという。

 

次の世代へ

 「日系コミュニティーには、大きく分けて3つのグループがありますね。カナダ生まれで日本語を話さない日系カナダ人の中には、日本に行ったことがない人も多いです。日本から来て間もない新移住者、そしてカナダに長く住みながらも、日本との関わりを大切にしている人たち。それぞれのニーズを取り入れ、バランスを保つことは重要です」

 国際結婚により増え続ける子供たち。多様化するコミュニティーの中で次の20年に備えていくことが、今後の課題といえる。

 仕事量は、メールでのコミュニケーションを入れるとほぼ週7日。少人数ながらも、献身的なスタッフに恵まれたことは幸いだという。

 「働き始めて46年間、2週間以上の休暇を取ったことはありません。3人の子供と、もうすぐ2人めの孫が誕生します。家族とともに過ごす時間を大切に、妻と旅行や、できればまたマラソンにも挑戦したいと思っています」と話す。日系祭り、コミュニティー・アワード・ディナーを終えたときに、本当のリタイア生活が始まるのかもしれない。

 なお、事務局長職は北米で一般公募され、書類審査と面接の結果、社内から応募したケーラ後新門(ごしんもん)さん(現カルチャー・パートナーシップエンゲージメント部門マネージャー)に引き継がれることが発表された。

(取材 ルイーズ阿久沢)

 

2016年の日系祭りでトラベルラッフルの抽選をしたロジャー・レミレーさんと五明明子さん (撮影:Manto Artworks)

 

元プロアイスホッケー選手ウェイン・グレツキー氏と屋内競技場パシフィック・コロシアムで話しているところ(2006年2月)(写真提供:ロジャー・レミレーさん)

 

北米プロアイスホッケーリーグNHLの伝説的な名選手で「ミスター・ホッケー」と呼ばれたゴーディ・ハウ氏(2016年に死去)の80歳の誕生日(2008年)(写真提供:ロジャー・レミレーさん)

 

妻のカレンさんとロジャー・レミレーさん(写真提供:ロジャー・レミレーさん)

 

ロジャー・レミレーさん(右)から事務局長職を引き継ぐケーラ後新門さん(左)

 

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