2018年1月11日 第2号

2016年シーズンMLS(メジャー・リーグ・サッカー)のバンクーバーホワイトキャップスに在籍し、昨シーズンからJリーグのサンフレッチェ広島で活躍している工藤壮人選手によるサッカークリニック(メディアスポンサー:バンクーバー新報)が、バンクーバーで2日間(2017年12月16、17日)開催された(3日目の23日は、雪の影響でフィールドコンディションが悪く、残念ながら中止)。

 

真剣な眼差しで、工藤選手の指示を聞く子供たち

 

 バンクーバーに住む子供たちにとって、元日本代表で現役のプロサッカー選手に直接指導してもらう機会はとても稀なこと。ましてや工藤選手は、こちらのサッカー事情を理解し、日本との相違点も分かっているので、クリニックに参加する子供たちだけでなく保護者の方々にとっても期待が大きいことが、クリニック開始前から感じられた。そして待ちに待ったクリニックが始まると、12月の寒空を忘れるほど、瞬く間に過ぎていった濃密な時間となった。

 学年別で実施されたクリニックだったが、子供の年齢にかかわらず工藤選手が伝えたいことは、いたってシンプルなものだった。『ボールをしっかり止める』、『そのボールを狙ったところへ蹴る』。その2点の当たり前のことを、より正確にできるように練習していく。

 最初は、コーチの大人から止めやすい場所へ配給されていたボールも、時間が進むにつれ、大きく跳ねたボールだったり、よく見ていないとどこへ来るか分からないボールが配給され出し、子供たちはボールの行方に集中した。眼差しも真剣なものに変わっていくのが分かった。止めたボールを狙ったところへ蹴る練習も、単純にコーチへパスすることから、受けたボールを指定の枠内までドリブルで進み、シュートしてゴールを狙う練習へと、実践する内容が難しくなっていった。真剣な表情で課題に取り組む子供たちを、カメラのファインダー越しに追っていたが、短い時間で子供たちが上達しているのがよく分かった。工藤選手はクリニック中、フィールド内を休むことなく動き回り、子供たちひとりひとりのプレーをじっくり見て、声を掛けていた。

 後半にはミニゲームが行われ、子供たちを2チームに分けて試合をしたあと、クリニックの最後は、子供チーム対工藤選手らコーチチームとの試合。参加している子供たちは、地元のサッカークラブに入っている子もいれば、これを機会にサッカーを楽しんでくれたら、という親の思いで参加したサッカー初心者の子もいたが、どの子もチームの勝利のため、一生懸命にボールを追っている姿を見られたのは印象的だった。

 そして、子供たちと一緒にプレーする工藤選手の表情は、ホワイトキャップス在籍時の試合中にフィールドで見せていた表情と、とても似ているという発見もあった。リーグの試合でも、子供たちとのミニゲームでも、どんな立場でも、工藤選手はサッカーが好きで好きでしょうがないのだろう。

 工藤選手いわく、子供の頃は「特に足が早いわけでもなく、体格が大きいわけでもないのに、サッカーが大好きでいつもボールを蹴っていた」とのこと。その幼少時の壮人少年のように、サッカーにのめり込み、今回の参加者の中から、いつの日かプロサッカー選手が出るのでは、という期待が持てるクリニックとなった。それほど、子供たちがボールを追う眼が工藤選手と同じく真剣で、うれしそうだった。

 クリニック1日目は肌寒く、2日目は冷たい雨にもかかわらず、クリニック終了後には、見守っていた大人たちを含めサッカーフィールドにいた全員が大きな達成感を感じ、とても満足気だった。グループ写真の参加者の表情からも、それが伝わってくる。帰り際には「バンクーバーに来てくれて、ありがとう」「準備運動のランニングから、とても楽しかった」「また一緒にボールを蹴っていろいろ教えてほしいです」「来年も実施してほしい!!」「Today is the best day of my whole entire life」。そんな言葉を工藤選手に掛け、名残惜しそうにフィールドを後にしていった。

 また、サッカークリニックとは別の日(12月21日)に、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市の日系文化センター・博物館において、主に保護者の方へ向け、工藤選手自身の体験から、幼少期のサッカーへの取り組み方、日頃心がけていることなどの特別レクチャーが開催された。「試合中の飲料水は?」、「けがをしない身体つくりは?」など、普段気になっている点を、工藤選手に直接聞くことができ、参加した保護者の方々にはとても好評で、工藤選手がこのクリニックにFAMILYの文字を入れた理由が、しっかり伝わってくるレクチャーとなった。

 「今シーズン、バンクーバーホワイトキャップスの応援はもちろん、工藤選手のサンフレッチェ広島での活躍もカナダから応援して、シーズン終了後にまたバンクーバーで再会できたら最高です。多分それは今回のサッカークリニックに関わった皆が思っていることで、その輪を年々増やしていけたら良いですね」と、レクチャーに参加したサッカー少年のお母さんは話した。

 

MASATO KUDO FAMILY SOCCER CLINIC
インフォメーション他:https://www.facebook.com/masato.kudo.official

(取材・写真撮影 斉藤光一)

 

コーチチームのコーナーキック時、子供たちはとっさの判断で壁を作り、工藤選手も思わず笑みがこぼれる

 

小学1年〜3年生のサッカークリニック

 

小学4年〜6年生のサッカークリニック

 

子供の目線でシュート練習を見守る工藤選手

 

降りしきる冷たい雨の中、白熱したミニゲーム

 

日系文化センターにて、工藤選手のレクチャーに聞き入る参加者

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。