11月、バンクーバーオリンピック関連行事として、セキュリティに関 する情報公開が相次いだ。11月4日に開催100日前を迎えて、ますます五輪開催への関心が高まる中、大会前、期間中、大会後と、選手・スタッフ・観客の 安全を担うセキュリティにも注目が集まった。

国境警備と大会全体の安全を担うV2010ーISU


CSCでの手荷物検査デモンストレーション。入場者への気配りも警護のうちと説明

CSC事務所が入っている建物の1階にある雇用センター入り口。必要な人材が集まるま で雇用は続けられている。ポジション別だけでなく、年齢、性別、言語などあらゆる面をカバーする人材を募集している

空港でよく見かける身体検査。ここでもこうした機械類の取り扱い方などを訓練 している

レントゲン検査機の操作方法もトレーニングのひとつ

レントゲン検査機で写し取られた中身の画像を見て、危険物などが含まれていないかを見 分けるトレーニング

オリンピック・パラリンピック警備のための警察の枠を超えた特別警備隊ともいうべ きThe Vancouver 2010 Integrated Security Unit (V2010-ISU)が2003年に組織された。連邦警察(RCMP)が率い、バンクーバー市警、ウエストバンクーバー市警、カナダ軍で構成されてい る。2006、07年には、その活動を警備計画の重点に置き、バンクーバーオリンピック・パラリンピック冬季競技大会組織委員会(VANOC)や関係する 各都市、政府と連携して、オリンピック、パラリンピックの安全対策を協議した。

2008年からは実地訓練を開始。The 2010 Olympic Integrated Exercise Programと名づけられた警備実施訓練は3つの段階を踏んでいる。2008年11月、ブロンズ訓練が行われ、おもに地域的な安全と警備問題を試験的に 実施した。2009年2月、シルバー訓練が行われ、安全、警備の計画、手順、相互運用の実地訓練が行われた。そして、11月2日から1週間行われたゴール ド訓練では、迅速性の確認とともに、事故・事件の発生を想定した仮想訓練が実施された。

11月上旬のビクトリアやメトロバンクーバーの空には、カナダとアメリカの共同運営統合防衛組織である北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)の戦闘機 CF-18ホーネットが飛び、地上では、警察官、消防士、政府特別官、軍兵士など約2000人が参加して、放射性物質の被害訓練、テロリスト襲撃対策訓練 など、本番さながらに行われた。

大会時にはRCMP、市警など合わせて約7000人の警察官、4000人の私設警備員、4000人のカナダ兵をバンクーバー、ウィスラーに配備する予定 になっている。

バンクーバー空港も準備万端

バンクーバー国際空港は11月17日、オリンピック開催に関する特別措置について 発表した。正式に五輪公式スポンサーとなった同空港は、海外から訪れる選手、関係者、観客などをスムーズに出入国するための準備が整ったと胸を張った。さ らに、去年大雪で空港の機能が麻痺したことを教訓に、3000万ドルをかけて新しく除雪車などを購入し、大雪や凍結による離発着の遅れを大幅に軽減する対 策も取り、あらゆる方面での体制を整えていることを強調した。

空港以外でも空港利用がスムーズに行われるような対策が取られる。これまで一日の利用客数最高を記録したのは2008年8月の2万6000人。これが、 出国ピークになると予想されるオリンピック終了後の3月1日には3万9000人になるだろうと予測。さらに、取り扱う手荷物の量も選手たちの競技用スキー 板などを含めて7万7000個に激増すると見込んでいる。これらに対応するために、事前のチェックインシステムをバンクーバー、ウィスラー両選手村に設置 し、関係者や海外メディアが利用できる臨時ターミナルを空港近くに設けることを計画している。

空港では400人のボランティアと650人のVANOCスタッフが、期間中空港利用者を手助けする。空港責任者は、オリンピック観戦とは関係ない一般の 空港利用者にも、遅くとも3時間前までにはチェックインを済ませてもらいたいと混雑回避への協力を要請した。

こうした人、物、航空機へのセキュリティ対策についても発表されている。まず、預け入れ手荷物は、空港での検査で時間を取らないように、選手村に出発の 24時間前から事前に手荷物のセキュリティチェックが行えるよう機械が設置される。11月24日には連邦政府がバンクーバーをはじめ、カナダ主要空港に 2700万ドルをかけて最新の機内持ち込み用手荷物検査機を導入することを発表。まずバンクーバー空港に設置され、手荷物検査での精密度の向上と検査時間 の短縮を図る。

バンクーバー上空を通過する飛行機についても、厳しい規制が設けられている。通常は定期便の他に1日100機ほどあるプライベートジェットやチャーター 機などの利用が、期間中は200から300機に増加するとみられている。これらバンクーバーに乗り入れる全航空機のスクリーニングはもちろん、期間中のバ ンクーバー、ウィスラー上空での観光用フライト、広告機、気球や飛行訓練などについても、厳しい規制が行われる。

競技会場でのセキュリティ対策

競技会場への入場者に対して行われる手荷物、身体検査の警備員訓練の様子が、11 月3日、メディアに対して公開された。大会期間中に予定されている警備員総数5000人の90パーセント以上を雇用、訓練するのはサイエンスワールド近く に事務所とトレーニングセンターを置くContemporary Security Canada(CSC)。警備員に必要なスキルのトレーニングを現在行っている。トレーニング内容は、連邦警察(RCMP)の協力・指導のもとに構成され ている。

採用された警備員予備軍は、4段階の訓練を受ける。まずは、警備に必要な知識を身につける一般講習(GSS)、次に各ポジションに必要なスクリーニング スキルの訓練を受ける。手荷物の目視検査、レントゲン検査機の操作、州政府の認可が必要となる警備全体を統括する特別訓練、各競技施設の警備全体を管理す る競技施設マネージャートレーニング、コミュニケーション・オペレーター・トレーニングなど。その後、実際の競技会場での訓練をこなして本番を迎える。

CSCトレーニング・マネージャーのアラナ・バークさんは、手荷物検査のデモを実際に行いながら、「警備員は常に入場者の目の前で検査し、相手に決して 不快な思いをさせないよう心がけることも訓練されています」と説明した。検査中の無愛想な態度も仕事のうちという一般の空港検査とは違うことを強調し、国 内外からの選手、関係者、観客に、気持よく検査に協力してもらうことが大切と語った。

セキュリティ費用は予算内に?

バンクーバーが2010年冬季オリンピックの招致活動をしていた頃からセキュリ ティに対する予算は、1億7500万ドルと発表されていた。この金額には、開催決定後も国際オリンピック委員会(IOC)をはじめ、各方面から低すぎると 指摘を受けていた。IOCの開催地決定発表が2003年7月。2001年9月にアメリカで起きた同時多発テロ直後で、セキュリティに関する予算はどのオリ ンピックでも高騰し続けていたことを考慮すれば当然の危惧だった

今年2月、連邦政府はセキュリティ予算を9億ドルと試算した。当初予算の約5倍に膨れ上がった。ブリティッシュ・コロンビア州政府も一部負担する。

その後警備予算については大きく触れられることがなかったが、10月29日、オリンピック警備担当責任者が、試算以上に警備予算が膨れ上がることはなさ そうだという見解を国会で述べた。もし、テロリストなどの襲撃という大きな危険性がなければ予算以下に収まる可能性もあると語った。

しかし、10月30日にビクトリアで行われた聖火リレーの出発式直後、反オリンピック派が抗議行動を行い、聖火リレーのルートが変更されるという事態が 起こった。その後、バンクーバー島を回った聖火だが、ビクトリア市は聖火リレーの警護のために14万1000ドルを費やした。その他の市でも合わせて2万 7500ドルが費やされた。この額にはRCMPへの費用は含まれていない。BC州政府は、ビクトリアでの聖火リレー警護のための費用はビクトリア市の負担 であり、BC州政府、もしくはVANOCの予算には含まれないと弁明している。

反オリンピック派の団体は、貧困撲滅運動団体から、環境保護団体、先住民の権利を訴える団体までそのテーマは様々で、今後も抗議行動を続けると公言して いる。オリンピックでの抗議行動は暴力的な行動でない限り、その権利が保障されている。 今後こうした抗議行動への警備にも費用がかかることをビクトリア での出来事は証明し、オリンピック・パラリンピック警備への費用がどれくらいになるかは、まだまだ流動的である。

 

(取材 三島直美)

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