2019年10月24日 第43号

11月9日、アルメニアの作曲家コミタス・ヴァダペット生誕150年を祝うピアノ・リサイタルが開催される(主催:ブリティッシュ・コロンビア州アルメニア文化協会、メディアスポンサー:バンクーバー新報)。ピアニストはオランダ在住の七條恵子さん。コミタスの音楽に詳しい七條さんは、主にヨーロッパで活動するフォルテピアノ・スペシャリストである。来加を前に話を聞いた。

︎七條恵子さん演奏によるコミタス作品アルバム 『Komitas Vardapet  Six Dances』 (iTunesにて配信)(CDジャケットより)

 

古典音楽との出会い 〜七條恵子さん〜

ーどのようなきっかけでクラシックピアノから古典音楽を学ぶようになったのでしょうか。

 たまたま歴史的楽器に触れられる機会に恵まれたのですが、音楽的に私がそれまで抱いていた疑問がそのことでいろいろと解決されたこともあり、気がつけば深みにはまっていました。歴史的鍵盤楽器のコレクターさんとの出会いがきっかけでしょうか。

ーアーリーミュージックとは、古い時代の西洋音楽を当時の形に近い古楽器で演奏することと思いますが、その魅力、演奏する面で大変な点とは?

 大変なことは曲にあった楽器をアレンジすることです。(演奏面での大変さではありませんが…。)ピアニストは会場にあるピアノを弾くのが普通ですが、私の場合はプログラムに合ったピアノを持ち込むことがよくあります。

 歴史的楽器に触れ、楽器の構造や演奏法を理解することが、作品の歴史的背景を理解するのに大きな手がかりとなり、作曲家が直に聴いた音に一歩近づける気がします。その結果、音楽のテクストやその意味がクリアに、身近になり、作品の書かれた当時の斬新さ、新鮮さに直に触れられるような感覚があるのが魅力です。

ー作曲家コミタス作品について

 ある日突然、ドゥドゥクの演奏家と一緒に一つのコンサートを演奏してほしいと依頼されたのが事の始まりでした。ドゥドゥクとのデュオは即興演奏をしましたが、その他にも、アルメニア作曲家によって書かれた作品を演奏してほしいと言われ、たどり着いたのがコミタスの舞曲です。弾き始めてすぐに虜になってしまいました。これまでに知っていたどの音楽とも違う魅力があり『6つの舞曲』では音をたくさん書いている訳ではないのに、書法に透明感を残しながらも、アルメニアの民族楽器のアンサンブルを聞こえさせてくれるような音楽の密度とスケールに驚きました。『7つの歌』は私の大好きな曲で、アルメニアの自然の景色が目に浮かんでくるようなメロディーが本当に美しいと思います。(注:ドゥドゥクとはアルメニアの民族楽器で、ダブルリードのたて笛)

ー『ふたつの古代文化の架け橋』と題したコンサートでは、バンクーバーの聴衆にどんなことを伝えたいですか?

 アルメニアに行った時、日本を思い出すことがたくさんありました。山の景色がまずそうでした。4月の終わりで、あちこちにアプリコットの花だと思いますが咲いており、日本の桜を連想させました。

 アルメニアの民族楽器にも、日本の民族楽器を連想させるものが少なくなく、そういった意味でもアルメニアという場所や文化に親しみを覚えたものです。

 初めてのバンクーバーでコミタスの音楽を演奏することで、そういった両文化に対する思いのようなものが伝わればいいなと思っています。

 

ふたつの古代文化の架け橋 〜アルト・タブツキアンさん〜

 非営利団体ブリティッシュ・コロンビア州アルメニア文化協会のアルト・タブツキアン(Arto Tavukciyan)さんによると「今回、私たちが最も尊敬する作曲家コミタスの生誕150年を記念して、ピアニストの七條恵子さんをお招きしました。七條さんはコミタス音楽のスペシャリストとも呼べる演奏家です」

 「第一次世界大戦中、オスマン帝国の少数民族であったアルメニア人の多くが強制移住や虐殺を受けました。第二次世界大戦中には、カナダの日系人が強制収容と移動を強いられています。同じような体験をしたことから、アルメニア人は日系カナダ人とのつながりを感じています。このコンサートを通して、コミタスの音楽が『ふたつの古代文化の架け橋』となることを祈っています」と話している。

 

七條恵子:ピアニスト、フォルテピアノ奏者。チェンバロから現代ピアノまで幅広く演奏し、歴史的鍵盤楽器のスペシャリストとしても現代ピアノの奏者としても、バロックから現代までの幅広いレパートリーでヨーロッパを拠点に広く演奏活動を展開している。ブルージュ国際古楽コンクール第1位、トロッシンゲン国際古楽コンクール『à tre』第1位など、数多くの受賞歴がある。
ユトレヒト古楽音楽祭(オランダ)、ヨーク古楽音楽祭(イギリス)、ブリュージュ国際古楽祭(ベルギー)、キャンベラ国際音楽祭(オーストラリア)、オストラヴァ現代音楽祭(チェコ)、ガウデアムス現代音楽週間(オランダ)など、世界各地の音楽祭に出演を重ねている。
録音に『シューベルティアーデ2』(浜松市楽器博物館シリーズ)『コミタス、6つの舞曲』(Makkum Records)、『Tom Johnson: Spaces, An Hour For Piano』(Wandelweiser Records)、『ベートーヴェン1802』(Etcetra Records)などがあり、ヨーロッパ各地、アメリカ、日本などで高く評価される。ブリュージュ国際古楽音楽コンクールフォルテピアノ部門審査員。オランダ、ティルブルフ音楽院にてピアノ、フォルテピアノを教える。アムステルダム在住。www.keikoshichijo.com

 

コミタス・ヴァダペット (Komitas Vardapet) (1869-1935): アルメニアの司祭、音楽学者、作曲家、歌手、聖歌隊指揮者として知られるコミタスは幼い頃に両親を失い、アルメニアの宗教的中心地であるエチミアジンに送られ、神学校で教育を受けた。その後司祭となった彼はベルリンに行き西洋音楽を学んだことで、失われかけていた多数のアルメニアの民族音楽を復興させ、1904年に初の『クルド民謡集』を出版。しかし『アルメニア人ジェノサイド(大虐殺)』の騒動に巻き込まれ、1915年4月に収容所送りとなり、ここで精神的ダメージを受け失意のまま晩年を過ごし、1935年に苦しみの末この世を去った。彼の悲劇的な生涯は大量虐殺の殉教者として、アルメニア国家における重要なシンボルになっている。アルバムに収録された作品は、彼の悲劇的な生涯が信じられないほどに純粋で、かすかな異国の香りも感じさせる美しさをたたえている。

 

Komitas 150
コミタス生誕150年を祝うピアノ・リサイタル
A Bridge between Two Ancient Cultures
11月9日(土)8pm
Vancouver Academy of Music (1270 Chestnut Street, Vancouver)
七條恵子(ピアノ)
入場料:前売り40ドル、当日45ドル
オンライン購入 https://komitas150.brownpapertickets.com
電話購入:1 (800) 838-3006
主催:ブリティッシュ・コロンビア州アルメニア文化協会

(取材 ルイーズ阿久沢)

 

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詳しくはパート1、5ページの 応募用紙をご覧ください。

 

︎ピアニスト、フォルテピアノ奏者の七條恵子さん(Photo by Ivan Sorée)

 

︎ヨーロッパを拠点に演奏活動する七條恵子さん (Photo by Michel Marang)

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。