彼から受ける
愛情表現に戸惑い
参加者約20人のほとんどがカナダ人と結婚している日本人女性。そんな中でカナダ人の彼としっかり腕を組むトシコさんは「バレンタインの日に婚約したんです!」と幸せいっぱい。話を聞く間も指を絡み合わせたりして、アツアツのふたりだった。
国際結婚の会代表のボンコウスキー靖子さんが「欧米男性は日本人よりも愛情表現がストレート。おはようのキス、行って来ますのハグ、ただいまのキスとハグ。“アイ・ラブ・ユー”はもちろん“きれいだね”など相手を褒めるストレートな言葉に感情表現も豊か。それに慣れない日本人女性は、どう受け止めて返していったらいいのか。皆さんは愛情表現に対して戸惑いを感じたことはありませんか?」と課題を問いかけた。
アイ・ラブ・ユーは夫婦の挨拶?
「うちの夫は出かけるときと帰ってきたときに必ずキスをしてくる」
「彼は寝る前には必ずお休みのキスをする」
「彼が帰ってきたときに玄関まで出迎えないと、Where's my kiss?なんて言われることがある」などお互いのケースを話し合ううちに、浮き上がってきた疑問があった。
「ハグやキスが習慣になっている感じもする」
「私たちが“行ってきます”や“ただいま”を言うみたいに、習慣としてキスしているのでは?」
「ハグやキスは、日本人がおじぎをしたり、カナダ人が握手するのと同じようなものかもしれない」
「アイ・ラブ・ユーと言ってるけど、毎回深い意味を込めているとは思えない」
このほか、彼のアプローチが重荷になっている人もいた。
「疲れてひとりになりたいときにハグされて、嫌になることがある」
「夫が帰宅のたびにキスしてHow are you?と聞くのでうっとおしい」
「日本に帰ったとき、両親の前でハグやキスをされると照れくさい」
また表現の延長線上として「カナダでハグするように、日本に帰ったとき両親をハグしたかったが、照れくさくてうまくいかなかった」との意見にはうなづく人も多かった。
「日本とカナダの愛情表現の違いからくる戸惑いについて」
精神科医 野田文隆先生の話
あるカナダ人夫と日本人妻のケース
つき合っていたときは彼が毎日彼女を車で職場まで送り迎えし、1日に3度は電話して“アイ・ラブ・ユー”を言っていた。ところが結婚してからの彼女は1日3回の彼からの電話がうっとおしくなった。“結婚前はうれしかったけど、もう結婚したんだからそんなことしなくてもいいじゃない”と。 あるときそれを態度に出してしまった彼女に彼は「どうして自分と同じように愛情表現をしてくれないのか。自分の愛を喜んで受け止めてくれていないのでは? 彼女のことがわからない」と悩んでしまったという。
言葉やセックスが必要?
カナダ人は愛情を表現し続けることによって自分の愛を形、言葉で見せるのが流儀と思っているのではないか。だから愛情表現をしなくなったとき、ふたりの間が終わったような不安もあるのでは。それを否定するために、肉体的なつながり、セックスが重要になってくるのではないか。
日本人女性は、愛情表現はうれしいけれど、あまりそこに価値を置いていない。むしろ感情とかエモーションに働きかけてくるようなものを、重要に思っているのではないか。それが何であるかが今日のテーマではないでしょうか、と話した。
愛情表現に戸惑い
日本では、家族を養ってくれるお父さんなら“風呂、メシ、寝る”と口数が少なくとも、それはそれで受け入れられていた。一生懸命ご飯を作り家庭を守っていることが、お母さんの愛でもある。愛情表現をしなくても、社会責任などを含め充分つながっているのが日本の夫婦といえる。
そんな両親の関係を夫婦として見て育った日本人にとっては、相手を褒めるような言葉は照れくさくて言いにくい。そんな男性が日本には多いのでは。そういう文化で育った日本人女性が、愛情をストレートに表現するカナダ人の結婚感に慣れず、カナダの愛情表現に戸惑いを感じているのでは、と野田先生は話す。
心地よい愛情表現をさぐる
どうしたら愛情表現がうまく出来、お互いのコミュニケーションに活かしていくことができるのかを話し合ったこのセミナー。
参加者の中には、カナダ人と結婚したのだから愛情表現を期待していたのにそれがない、という人もいた。
「普段“アイ・ラブ・ユー”と言ったことのない人が言ったときのインパクトの大きさも考えてみてください」と野田先生が提案するように、受け身でなくこちらから積極的に愛情表現してみるのも、夫婦間にスパイスを与えるのでは?
結論として「お互いにとって心地よい愛情表現を、暮らしの中でふたりがさぐっていくことが大切なのではないでしょうか」とボンコウスキー靖子さんは話している。
(取材 ルイーズ阿久沢)
野田文隆博士:
大正大学人間学部教授(臨床精神医学)。1985年UBC留学中より日本人、日系人のメンタルヘルスケアに携わり、現在も3ヶ月に1回ずつバンクーバー総合病院内で「多文化外来」を行い、文化間精神医学の視点から在外邦人のメンタルヘルスに関する臨床研究を続けている。UBC精神科Adjunct Professorを兼任。
国際結婚の会:
1997年に移住者の会とJCCA人権委員会の主催で始まり、2002 年までワークショップを行った。近年、国際カップルが急増したことから、前役員らとボンコウスキー靖子さんが中心となり2009年夏から活動を再開。年に3回ほどバンクーバーを訪れる精神科医、野田文隆先生を中心にワークショップを開催している。
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