氷の彫刻アーティスト
新本仁(しんもとひとし)さん
クリスタルな輝きを放ち、ライトアップされるとさらに豪華な雰囲気をかもし出す氷の彫刻。氷の彫刻アーティストとして20年以上の経験を持ち、日本とフランスを経てこのたびカナダに移住した新本仁さんに話を聞いた。
2013年氷の彫刻世界大会(旭川市)参加作品『Je Saute! 跳ぶよ』
この仕事に入ったきっかけは?
広告会社でグラフィック・デザイナーとして働いていましたが、お店のインテリア・デザインを頼まれたときにデザインしたものが立体となって表現されることが新鮮でした。それで紙の上の二次元の世界から、三次元のデザインに興味を持つようになりました。その後、新聞広告で氷の彫刻について知りました。
彫刻はどのようにして行われますか?
習うのではなく『見て覚えろ』という感じです。1本の氷は高さ1メートル、幅50センチ、奥ゆき25センチで、それを大きな電動のこぎりで切っていきます。字や顔を彫るときはドリル、平らにするのはディスク・グラインダー。すじを入れる三角ノミ、丸く彫れる大・中・小のノミを使い分けます。 値段は彫刻した1本の氷が200から250ドル、センターピースで50ドルくらいです。
作業場は?
冷凍庫と同じ寒さの倉庫で、スキーウエアに毛糸の帽子、軍手の上にゴム手袋をつけて仕事をします。
何年くらいの経歴ですか?
約20年くらいでしょうか。7年ほど仕事をしたあと日本の景気が悪くなり、フランスに移りました。パリではパーティーほか企業のロゴやマスコットを彫ったり、結構忙しかったですね。 ユーロ・ディズニーではミッキーやドナルドを彫ったり、シンデレラ城の前でデモンストレーションもしました。屋外でのデモンストレーションは天候に大きく左右されるので、時間との勝負です。次第に溶けていくところも、また芸術です。雪山だと一度彫ったものは1シーズンくらいもちます。
2004年氷彫刻世界大会(オタワ)で個人選優勝した作品『Espoire』
権威ある大会に出展して優勝もされていますね?
旭川やオタワでの『氷の彫刻世界大会』で賞をいただいています。世界大会用には3日から1週間かけて彫ります。通常は1本の氷で2時間から4時間かかります。
カナダに移住したきっかけは?
フランスで13年働いたあと誘いを受けてカナダに来て、高橋博さんと一緒に働いています。サーモンはもちろん、鹿や狼などワイルド・アニマルも彫っています。 ヨーロッパは移民が多く考え方もそれぞれで、パリでの生活は大変でした。それに比べるとバンクーバーは過ごしやすくて天国みたいです。住んでいる人たちもいい人ばかりですね。
氷の彫刻の大変さ、魅力とは?
氷は固いけれども壊れやすいので、バランスを見ながらデッサンをしていきます。でも、壊れやすいところを補強してシルエットを出すほうがきれいに見えるのです。そのあたりは経験が必要ですけど。 信じられないと思いますが、氷にアイロンをかけます。そうするとまっすぐにぴかっと光って透明になるのです。うれしい瞬間ですね。
新本仁(しんもと・ひとし): 1965年、兵庫県宝塚市出身。2004年第17回氷彫刻世界大会(オタワ)で個人選優勝。2007年同大会(オタワ)で個人第2位。2009年、氷彫刻世界大会(旭川市)で個人戦最優秀賞(新人賞・特別賞)。2013年に神戸六甲山の大会で優勝した『La mer de vie』の写真が翌年の大会の表紙写真に。2014年カナダに移住。妻と息子(4歳)とリッチモンド在住。www.cool-creations.com
氷の彫刻アーティスト新本仁さんとご家族
(取材 ルイーズ阿久沢/写真提供 新本仁さん)