2020年2月20日 第8号

発達障害児/者を持つ家族のための日系サポートグループTwinkle Stars主催のセミナーが、2月8日、バンクーバー市のDevelopmental Disabilities Associationで開かれた。今回は、スクールディストリクト43(コキットラム市)にあるグレン・エレメンタリースクールのリソースティーチャー、キャシー・ダドリーさんが、発達障害を持つ子どもに対する学校のサポートや教育のシステムについて説明した。定員の30人を超える問い合わせがありお断りする人もいたとのことで、関心を寄せる人が多いトピックであることが分かる。ここで概要を紹介したい。

 

ダドリーさんによる分かりやすい説明で有用な情報がたくさん得られたセミナー

 

通常とは違う教育システム

 障害とは視覚障害、聴覚障害、慢性的な健康障害などといった身体的なものから、発達障害や知的障害までさまざまなものがある。BC州では障害の種類や程度によってAからGまでのカテゴリーに分け、それぞれに対応した支援教育をおこなっている。自閉症を持つ子どもも、このうちの1つのカテゴリーが割り当てられている。

 支援教育をおこなう上ではIEP(Individual Education Plan)というものを作成する。これは子ども一人ひとり独自の教育プランで、その子どもにとって適切なゴールを設定し、そのために必要なトレーニングや教育方法を定めていく。年度を通じて学校側と保護者がミーティングを持ち、ゴール設定や内容を検討したり、進捗状況、評価や見直しをする。

 IEPにはいろいろな項目が設定されている。コミュニケーションや社会的スキルでは、自分の気持ちや要望を表現する、人の話を聞いて理解し受け止めることなどや、友達との良い関係を継続させるためのスキルを学ぶなどといったことが挙げられる。自分の感情を上手にコントロールできずに暴れたり、人を叩いたりといった問題行動を起こしがちな子どもであれば、自己制御のスキルを学ぶ必要もあるだろう。リソースティーチャーとしては、学業よりもまず行動面の発達を促すことを重要視している。それによって学業が遅れがちになることもあるが、もしあまりにもその遅れが目立つようであれば、知的障害を持っていることも考慮する必要がある。そういった心配のある子どもについては、通常グレード3くらいまでにPshyco-Educational Assessmentというテストを受ける。学校を通して受けると無料だが、ウェイトリストも長く1〜2年待つことも多い。個人で受ける場合は約2千ドルかかる。

 BC州の場合、特別支援を受ける生徒向けの高校卒業プログラムにはDogwoodとEvergreenというものがある。前者は必須科目を履修したことによって高校卒業資格を得るもの。テストの時間を延長してもらったり、別室に行って静かな環境でテストを受けるというようなことで対応できる場合、AdaptedとしてDogwoodプログラムを修了することも可能だ。後者は基本的にIEPを持って特別支援を受ける生徒が、それぞれのIEPプランに沿って達成したことに対し授与される修了証書ということになり、高校卒業と同等とはならない。Dogwoodプログラムを受けている生徒でもIEPを持っているケースもある。

就職につなげる教育

 コキットラムの学区ではWork Experienceというプログラムがある。履歴書の作成の仕方や面接の練習などをして、グレード10では小売店やファーストフードなどさまざまな場所で実際に働き、お給料も得ることができる。働き始めた場所で本採用されるというケースもあり、高校卒業後の生活設計の一助ともなり得る。

 ダグラスカレッジには、特別支援が必要なグレード12と12+の生徒を対象としたTransition Programがある。自分で公共交通機関を利用することができることが履修条件の1つ。カレッジの授業を受けつつ実際に仕事にも就くことができるので、良い職業訓練となるだろう。その他、多くの大学やカレッジで特別支援が必要な学生へのサポートを提供している。また、発達障害を持つ人を対象にした、特定の分野に特化した勉強をするSTEPS Forwardというプログラムもある。これによって障害があっても大学やカレッジで勉強を続けることができる(学位はつかず修了証書を受け取るプログラム)。

学校との信頼関係を築こう

 どの学校が良い学校かということは、やはりそこで働く先生やスタッフによるところが大きいだろう。こうしたことは保護者同士のネットワーク内でチェックすることが一番信用がおけるかもしれない。

 リソースティーチャーは、IEPの作成、ケースマネージャーとして子どもと保護者に対応する、関係者(専門家やソーシャルワーカー等)と連絡を取り合う、問題があった時の対応、EA(Educational Assistant)の配置やシフト管理、EA の監督などの職務を担当する。EAの役割は、子どもと直接関わって指導やサポートをする、リソースティーチャーと連絡を取り合う、授業のための補助資料を作成する等。先生やEAは平日の6時間ものあいだ子どもと過ごすので、子どもの教育における役割は大きいといえる。より良いサポートを可能とするためにも、ぜひ先生やEAを信頼し、子どもについての正しい情報を伝えてほしい。学校側と良い関係を築くことはとても大切で、それによって何か問題が起きた時への対応もスムーズに進むと思う。

 どの学校でもEAなどサポートスタッフの人数は不足気味であり、身体的障害や健康上の障害がある子どもへの支援が優先される傾向がある。日常生活をサポートなしで送れるが多少の問題行動があるという子どもには、学校でのサポートはほとんど付けられないのが現状であることも頭に入れておきたい。

親として子どものためにできること

 障害を持つ子どもも将来的にはできるだけ自立した生活を送れるようになることが長期的なゴールだと考えている。親はいつまでも子どもの側にいられるわけではないので、子どもが自立するスキルを持ち、質の高い生活を送ることができるように導いていくこと、これが障害を持った子どもに対する特別支援での最大の目的だと思う。

 親としては、子どもがいろいろなことができるようになってほしいと願うものだが、子どもの持つ能力以上のものを求め、プレッシャーをかけてしまうのは逆効果になりかねない。何ができて何が得意か、苦手なものは何かを見極め、子どもが好きなことや得意なことに集中させてそこを伸ばす手助けをしていくことが大切だろう。親がいなくなった後も子どもが自分の人生を幸せに生きていけるようサポートしていくこと、それが親にできることかもしれない。  

 

 Twinkle Starsではセミナーやワークショップを定期的に開催している。次回は5月30日に、発達障害を持つ子どもや家族に役立つアプリの紹介を予定している。このセミナーについてまたは問い合わせ全般はこちらまで。 This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.

(記事提供 大島多紀子)

 

キャシー・ダドリーさん(中央)とTwinkle Stars代表のバーンズちぐささん(右)とこの日、受付を担当した大喜多こずえさん(左)

 

 

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