2020年1月1日 第1号

Canada's Ballet Jorgen(以下CBJ)は、21世紀の観衆が身近にバレエを感じられるよう、カナダのアイデンティティを大切にバレエ作品を公演しているバレエ団。トロントがベースの同団には、現在4名の日本人バレエ・ダンサーが在籍している。日本を離れカナダで活躍する皆さんに話を聞いた。

Q. 1 今までのバレエの経歴と、海外のバレエ団で踊っている理由は?
Q. 2 このバレエ団での活動は?
Q. 3 今回の公演、『赤毛のアン』での配役と役作りは?
Q. 4 バレエ・ダンサーとしてのこれからの抱負は?

 

齋藤浩人(さいとうひろと)さん

Q. 1 7歳の時に父親に連れられ地元・神戸の貞松浜田バレエ学園を訪れ、バレエを習い始めました。中学校卒業後までは上記のバレエ学園で学び、1996年の春から1999年の初夏まで英国イングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクールに留学、1999-2007年まで香港バレエ団に所属して、2007年よりCBJで踊っています。子供の頃からの夢だったプロのバレエ・ダンサーとして海外で働くことができて幸せです。

 日本ではダンサーという仕事に安定性がなく、所属している団体が公演のチケットをダンサーにチケット・ノルマとして課していたり、男性ダンサーの多くは数あるバレエ学校の発表会出演での謝金が主な報酬となっているのが現実です。『新国立劇場』や『kバレエ』のようなきちんとした団体も増えましたが、未だに上記のような活動をしなくてはならない場合がほとんどだと聞いています。カナダを含む海外では、ダンサーが職業として確立されています。競争の激しい狭き門ではありますが、バレエ団に所属すれば賃金が出て好きな踊りに集中できる恵まれた環境が与えられます。

Q. 2 2007年よりCBJで活動しています。プリンシパル・ダンサー(主役級を踊るダンサー)として香港バレエ団から移籍して10年間ほど第一線で踊ってきました。3年前にバレエ・マスター兼ダンサーとして活動を始めて、ほとんど主役を踊ることはなく、キャラクター・アーティスト(主に助演役を踊るダンサー)として活動しています。バレエ・マスターとして、ダンサーのスケジュールやリハーサル等の管理。また、同団のダンサーを教えたり、バレエで踊る場面のリハーサルを監修します。今回の作品に関しては、まずはダンサー全員が音通り、振り付け通りに踊れること。そして、振付家である芸術監督が求める一つ一つのステップに対する音のシンコペーションの取り方や、身体のポジション等も仔細に入ってリハーサルをしました。公演ツアー中は、訪れるコミュニティーにあるバレエ学校等にマスター・クラスを教えたりもしています。

Q. 3 今回の作品ではアンを引き取ることになるマシュー・カスバートおじさんの役を踊っています。原作を読みこの役が大好きになったので、スッと役に入っていけました。チャレンジは、60〜70代のおじさん役なので、キビキビと動けないこと。姿勢や歩き方、しぐさなども常に役になりきることです。意識していないと、どうしてもいつもの調子で動いてしまうので、それがとても難しいです。舞台の度に自分が好きなキャラクターになれるのは楽しみのひとつです。毎回の舞台を飽きないようにするために、日によって少し変化をつけるよう心掛けています。

 今回の作品はとても演劇的な部分が多かったので、ドラマ・コーチが数多くリハーサルを担いました。『赤毛のアン』という広く知れ渡ったストーリーをバレエ作品で演じるので、いかに原作の内容を伝えることができるか。また、同作品のミュージカルを基に創られた作品なので、芸術監督やドラマのコーチは、原作とミュージカルの相違点等も意識した上で今回の作品を仕上げました。

Q. 4 バレエ・ダンサーとしての抱負は、けがをしないで40代に入ってもしっかりと踊りたい、また、踊れる身体をキープしたいです。また、同団のダンサーたちの成長や、公演の成功、この団体の活動の素晴らしさをカナダの人々だけではなくて、日本やヨーロッパなどにも広げていきたいです。特に今回の演目の『赤毛のアン』は日本でもとても人気のある作品なので、日本にも公演ツアーで行ければいいなと願っています。

 原作のファンの方はもちろん、そうでない方も、劇場に足を運んで『赤毛のアン』をぜひ、ご覧いただきたいです。アンのように喜怒哀楽が激しく、そして、心温まるcuteなバレエ作品に仕上がっています。

 

齋藤浩人さん 

アンと妹のマニラ、マシューおじさんに扮する齋藤浩人さん(左)credit:Cylla von Tiedemann

 

 

松井百香(まついももか)さん

Q. 1 8歳の時、ダンスを習いたい姉に付いてバレエ教室に行ったのがきっかけでバレエを習い始めました。福岡の加藤由紀子バレエ教室でバレエを始め、17歳からロシア、カナダで研修しました。バレエ・ダンサーとして踊れるチャンスは海外の方が多いし、いろいろな作品や踊りのスタイルに触れたかったので、19歳でCBJで働き始めました。

Q. 2 今年で働きだして6年目になります。今シーズンは、『赤毛のアン』という新作の制作に関わり、有名な著作を題材に新しいバレエ作品を生み出す貴重な経験をしました。とても忙しい毎日ですが、充実したリハーサルをしています。

Q. 3 主人公アンのセカンド・キャストとしてリハーサルをしています。とても感情豊かで想像力の長けたアンの役を演じるので、素の自分と重ね合わせて役を作っていくいつも通りの方法と少し違うアプローチで役作りをしています。本をじっくりと読み込み、自分のアン像をイメージしながら踊るようにしています。2時間のバレエ作品の中で、アンの成長や、マシュー、マリラ、アンの一家の家族の絆が深まっていく様子がしっかり伝わるように頑張ってリハーサルをしています。

Q. 4 バレエのテクニックはもちろん、お客様がまた観たくなるような、そして、家に帰ってからもバレエの素敵な余韻を楽しんでもらえるような、人の心に響く踊りをするダンサーを目指しています!

 

松井百香さん

『くるみ割り人形』のフラワーに扮する松井百香さん credit:Cylla von Tiedemann

 

 

藤原朱里(ふじわらあかり)さん

Q. 1 3歳の時にバレエ教室の発表会を観て感動し、バレエを習い始めました。中学三年生の時に出場したコンクールで優勝し、アントワープのバレエ学校へ奨学生として入学しました。その後、紹介でトロントのナショナル・バレエ・スクールへ転入し、卒業後CBJに入団しました。

 日本の繊細なバレエに比べて海外のダイナミックなバレエに魅力を感じ、今はカナダで踊っています。特に同団のダンサーの演技の見せ方は、とても勉強になっています。カナダでは日本との文化の違いを感じながら、さまざまな要素を吸収し、バレエに生かしています。

Q. 2 2016年の9月からCBJに所属しています。同団は毎年カナダ全土の都市を巡る公演ツアーを催しており、アメリカへも行きました。徐々にいろいろな役に抜擢されるようになってきていますので、今後もさらに成長したいです。

Q. 3 アンの親友のダイアナを演じます。踊りと演技の両方において、アンとの性格の違いや、人物的背景の違いを表現できるように心掛けています。時には芸術監督や共演者と相談しながら役を作り込んでいく作業はとても楽しいです。

Q. 4 表現者として観に来て下さったお客様の記憶に残るようなダンサーでいたいです。CBJは毎年バンクーバー地域でも公演しておりますので、一度ご覧いただけるとうれしいです。

 

藤原朱里さん

アンの親友のダイアナ役に扮する藤原朱里さん(右) credit:Cylla von Tiedemann

 

 

田中Erina(たなかえりな)さん

Q. 1 ダンサーだった母はバレエを習うために日本からアメリカに移住しました。アメリカで生まれ育った私は、5歳の時にタップ・ダンスを習い始めました。私の姿勢がダンスを習うことによって整ってきた8歳の頃、バレエ・クラスに通うようになりました。15歳でニューヨークにあるSLKバレエ学校に入り、2015・16年に英国のナショナル・バレエ学校の交換プログラムに合格。その後、アメリカン・バレエ・シアター、ボリショイ・バレエ、シンシナティ・バレエで学び、オレゴンのユージン・バレエの研究生を経て2019年よりCBJに入団しました。

Q. 2 私はアメリカで育っているので、国外に出て新しい環境に身を置いてプロのダンサーとして踊りたかったのです。CBJのあるトロントは、私の故郷であるニューヨークにも近くて幸運です。このCBJは皆さんとても友好的で、私の入団を歓迎してくれました。カナダの各地を公演ツアーで回れることも大きな魅力です。

Q. 3 私の大好きなアンの友人のジェーン役に扮します。女子学生として楽しい様子を表現するために、たくさんのエネルギーを必要とする役です。私はたくさんのブロードウェイ・ショーを見て育ったので、演技をすることにとても興味を持っています。

Q. 4 多くのバレエ・ダンサーが夢見るように、主役を踊るプリンシパル・ダンサーになりたいです。『ロミオとジュリエット』『眠れる森の美女』のような作品の主役を踊ることが夢です!

 

田中Erinaさん 

ドン・キホーテのキトリに扮する田中Erinaさん credit:Colton West Photography

 

 

ローワーメインランドの『赤毛のアン』バレエ公演
チケット: www.theactmapleridge.org/contact
Ticket Centre 電話: (604) 476-2787
■2月12日(水) 7:30 pm, 会場: Main Stage: 11944 Haney Place Maple Ridge
■2月14日(金) 7:30 pm, 会場: HUB International Theatre in Chilliwack Cultural Centre, Chilliwack
■2月16日(日) 3:00pm, 会場: Grosvenor Theatre in Kay Meek Arts Centre, West Vancouver

(取材 北風かんな)

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。