2019年11月21日 第47号
第9回ゼロウェイスト会議ZWC2019がバンクーバーで10月に開催された。世界の廃棄物は2050年までに現在より70パーセント増えると予測され、その問題は深刻さを増している。解決の鍵となるサーキュラーエコノミーの具体例など専門家や各国の政府機関、NGOが現状を報告した。
ループを紹介するトム・ザッキー氏
10月30日から31日の2日間にわたり、ゼロウェイスト会議 ZWC2019 がバンクーバーで開かれ、世界各国の企業や官公庁、NGOの担当者などのべ1100人が参加した。ZWC2019 は、「サーキュラーエコノミー(循環経済)をビジネスに繋げる具体的な例」「研究と技術革新」「ヨーロッパの事例」「海洋汚染とマイクロプラスチック」という4つの大きなテーマに沿って進められた。
循環経済をビジネスに繋げる具体的な例… 今年食品生活用品の通信販売に参入して注目されているのが「LOOP(ループ)」だ。ループは画期的なアイディアで米国のリサイクル業界を牽引してきた起業家トム・ザッキー氏の TerraCycle(テラサイクル)の新規事業だ。
ループは、提携する有名ブランドの食品や洗剤などの注文を受けると、市販の容器包装ではなく、ステンレススチールなど再利用できる専用の容器で顧客に届け、使用後容器を回収して消毒洗浄する。再注文があれば同容器に詰め替えして再び届ける。昔ながらの牛乳配達の事業構造だが、容器包装の簡易化に腰が重かった大企業と提携を取り付けるなど、循環経済市場の拡大が期待されている。
カナダでも来年、大手スーパー・ロブローがトロント周辺でループのサービスを始める予定だ。
研究と技術革新… マサチューセッツ工科大学セルフアセンブリーラボのスカイラー・ティビッツ氏が登壇。時間の経過に伴って形を変化させることが可能な立体物を作るプログラミング「4D プリンティング」を紹介した。
ティビッツ氏は、個々の素材が自らを組み立てるようにプログラムすれば、大規模な工場や資源もいらず廃棄物も減り環境にもよいと、日本の寺社仏閣建築での木材の特性を生かした技法など例に出して、木や石など素材の力と最新技術を融合させる独自の研究を発表した。
ヨーロッパの事例… 循環経済の先進都市といわれるフィンランド、ヘルシンキのアンニ・シンネマキ副市長が現状を報告。ヘルシンキは、2035年までに温室効果ガスの排出量を1990年のレベルから80パーセント削減するという高い目標を掲げている。シンネマキ副市長は、ヘルシンキは具体的な行動案を実行しているとし、人口は増えているが温室効果ガス排出量は減るに至った経緯などを語った。その行動案の作成に大きく関わっている「SITRA(シトラ)」は、フィンランド議会の公的基金を元にした独立系ファンドだ。シトラが政府や地方自治体、企業、国民をつなぐ媒体となり、 長期的な視点から社会・経済の競争力強化を目指す事業計画を手がけて成果を上げており国際的にも評価されている。
海洋汚染とマイクロプラスチック… 報道写真などで海洋汚染を警告するナショナル・ジオグラフィックのヴァレリー・クレイグ氏がプラスチック廃棄物の歴史的背景や現状を報告。プラスチック製品のうち40パーセントは一度しか使用されずに捨てられている。劣化した微細なプラスチックが海洋に漂うマイクロプラスチックの問題は氷山の一角で、実際は海底に沈む量が膨大であり、プラスチックの消費を大幅に減らすことが急務だと語った。
ZWC2019で繰り返し聞かれたのは、「一人の声が事を動かす」という言葉だ。スウェーデンの16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんなど若い世代が、世界各地で環境ストライキを行うなど、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)も活用した新たな潮流が生まれている。来年北米で初めて世界循環経済フォーラムのカナダ開催が決まっており、廃棄物削減の取り組みが大きく前進する機運が高まっている。
(取材 大倉野昌子)
マサチューセッツ工科大学スカイラー・ティビッツ氏
パネルディスカッションするアンニ・シンネマキ ヘルシンキ副市長(右から2番目)