2019年8月22日 第34号
映画『クィア・ジャパン』(Queer Japan)グレアム・コルベインズ(Graham Kolbeins)監督 インタビュー
LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア)の日本人を描いた長編ドキュメンタリー映画『クィア・ジャパン』。ロサンゼルス在住のグレアム・コルベインズ監督は日本のアーティストや活動家、パフォーマー、コミュニティーのリーダーなど、それぞれの日常生活を紹介し、日米の評論家たちをびっくりさせている。
レッドカーペットのグレアム・コルベインズ監督
日本での生活
「日本は独自のクィア文化を持つ」と信じて、自分にしか作れない日本映画に挑戦したグレアム・コルベインズ監督。2014年から2018年までの映画製作期間中、半年ほど日本に滞在し外国から見た日本人をドキュメントした。
「それは良くも悪くも、両方ありです」と監督は丁寧に前置きして「自分みたいに言葉もカルチャーも習って、日本で住む自信があったにもかかわらず、行ってみて全く想像しなかったカルチャーショックを受けました」と苦笑いした。そして飯田ひろみさん、石井アンさん、さらに漫画家の田亀源五郎先生がいたから撮影を続けられたと語った。田亀先生の紹介で京都のドラァグクイーン・シモーヌ深雪さんに出会い、さらに大阪の『ろうLGBT(聴覚障害&LGBT)センター』から手話を扱う人々の中にも差別表現があるなど、フィルムを撮りながら自分自身の勉強にもなったと話した。
呼び名について
「私たちの言葉は絶えず進化しています。アメリカに『ホモセクシャル』という言葉ができる前に、江戸時代の日本ではすでに『衆道』があり、『男色』、さらに『ゲイ』も第2次世界大戦後の50年代の日本のポップカルチャーに登場していました。『ゲイバー』や『ゲイボーイズ』という名称も日本先端で、アメリカの新聞や雑誌より10数年前に登場していました」と独自のリサーチを披露してくれた。
だが最近は『LGBTQ+』というグローバルな新しい名称が登場。監督は映画を撮りながらその名称通りに自分を区分けできない人たちがいることに気づいた。例えば映画のタイトル『クィア』や、舞踊家・松田篤史さん自称の『変態』、どちらの言葉もゲイとストレートの間のグレイゾーンに位置すると分析しながら、「一つの言葉に縛られないで自由な言葉で自分を表現できる」と続け、「ヴィヴィアン佐藤さんからの『たくさんの違うIDを持っていてもいい』という言葉は映画を観てくれた全ての人へのお土産になると思います」。
誰でも受け入れるということ
世界各国にいる多くのLGBTQ+の中でも トランス(性転換した人)を受け入れてくれる場所を探すのは難しい。監督は真面目顔になり「特に難しいのはMTF(男性から女性に性転換した人)で、彼らの中でさえ一番の差別対象になっています」と伝えた。さらに『女性のみ』というレズビアン向けの言葉はトランス・マスキュリンことFTM(女性から男性へ性転換した人)を除外する傾向がある。だから世界中の誰でも受け入れてくれる日本ならではの優しい場所、『Grammy Tokyo(グラミートーキョー)』の存在を知った時は最高にうれしかったと言った。ちなみに監督によると、映画に登場したFTMの人たちは皆素敵で優しい人だったそうだ。
15日のクィア映画祭のレッドカーペットは性別不明の人たちが集まり衣装が華やかだった。バンクーバーで生まれ育ったコルベインズ監督はこの映画祭に参加できてうれしそうだった。そしてバンクーバー新報の読者に向けて次のメッセージをくれた。「この映画を観てLGBTQ+をもっと知ってください。もしかして自分もと思ったら出てきて下さい。またそうでなくてもあなたの人生の輪のどこかに彼らを入れて友達になってください。彼らはどこにでもいます。皆さんの中にもきっといます。噛み付きませんからどんどん声を掛けてください」と大きくフレンドリーに微笑んだ。次もまた日本人主題の勉強になる映画をつくってくれると期待したい。
(取材 Jenna Park)
コルベインズ監督と映画祭の主催者
『クィア・ジャパン』の映画©2019 Queer Japan