2019年1月24日 第4号
ワレンバーグ-スギハラ・シビル・カレッジ・ソサエティ(WSCCS)が勇気ある行動で社会に大きな影響を与えたブリティッシュ・コロンビア州出身者に贈るシビル・カレッジ賞に、今年は日系カナダ人のメリー・キタガワ氏が選ばれた。1月20日にバンクーバー市H.R.マックミラン・スペースセンターで行われた授与式で受賞講演をしたキタガワ氏は、世間からの反発を恐れず正しいことに声を上げる勇気の大事さを訴えた。
授与式後には、日系カナダ人が強制移動した町グリーンウッドを舞台にした映画「The War Between Us」が上映された。
「シビル・カレッジ賞」を受賞したメリー・キタガワ氏(右)と賞を授与したアラン・レ・ファブレ会長
「反発を恐れず声を上げる勇気を両親から教わった」
キタガワ氏は、日系カナダ人へのカナダ政府による強制移動政策によって在籍中だったブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)から強制的に就学する権利を奪われた元日系人学生へ学位を授与するよう大学側に3年間働きかけた。その努力が実りUBCは2012年76人の元学生に名誉学位を授与した。
また2006年には当時の連邦保守党政権が、バンクーバー・ダウンタウンにあるビルにバンクーバー出身の元保守党議員ハワード・チャールズ・グリーン氏の名前を付けることを決定した時には、グリーン氏が日系カナダ人強制収容政策を推進した主要人物の一人であるとして反対運動を起こした。その結果2007年9月に、そのビルはバンクーバー出身の元連邦保守党議員で初の中国系カナダ人議員となったダグラス・ジュン氏の名前が付けられることになった。
こうしたいまだに残る日系カナダ人収容政策による不当な扱いを是正するために声を上げてきた功績が認められ、今回の受賞となった。
キタガワ氏は「正直すごく驚いた」と笑った。「私自身は活動家でもなんでもないですし」。しかし「公平で道理的に正しい評価を受けるための努力を常に心がけてきた」と語った。日系人はまだまだ声を大にして、その正当性を訴えていいと思うと言う。それが歴史を前に動かすことになる。「私も、夫も、これまで最善を尽くしてきた。誰かが話さなければ、その歴史は誰にも知られずなくなってしまう」。
グリーン氏の名前を付すニュースを聞いた時には驚いたと振り返る。「これはどうしても阻止しなければと決心した」と言う。そしてこうした出来事があるたびにメディアが取り上げ、その事実が明らかになっていく。だからこそ声を上げる必要があると語る。
「そのことで誰かから反発が起きることを恐れてはいけない。固い決意のもとで行動することが大事。これは私が両親から教えられたことでもあるんです。だからいつまでもワアワアうるさく声を上げているんですよ」と笑った。
ラウル・ワレンバーグ・デー
この日は在バンクーバー総領事館多田雅代首席領事、スウェーデン領事館トーマス・グラディン名誉総領事も出席。多田主席領事は「これまでの長年にわたる信念とご努力でUBCの学生さんに名誉学位が与えられたり、彼女の功績を今回より深く知ることができることに、キタガワ氏と協会に、感謝したいと思います」と語り、日系人の受賞を喜んだ。グラディン名誉総領事は「これまでに新聞やテレビなどで知っている日系人の歴史は断片的だが、映画で見るとよく分かる」と語り、映画上映など意義ある目的の基で協会が運営されているこうした授与式は、自分の知る限りバンクーバーでのみ開催されていると語った。
ラウル・ワレンバーグ・デーとは、第2次世界大戦中の1944年にハンガリー・ブタペストで自らの危険を顧みず、数千人のユダヤ人を救ったスウェーデン人外交官ラウル・ワレンバーグ氏の功績を称えてWSCCSが主催する記念行事。毎年1月に開催され今年で14回目。
スギハラとは1940年のリトアニア・カウナスで自らが職を失う危機にさらされながらも多くのユダヤ避難民を、いわゆる「命のビザ」で救った日本人外交官杉原千畝氏のこと。杉原氏の名前が協会名に付いていることについて同協会アラン・レ・ファブレ会長は、協会の理事の中に親が杉原ビザに救われたという人がいて、それから2人の外交官の名前を冠していると説明した。
当初は関連フィルムの上映会だけだったが、2015年からワレンバーグ氏や杉原氏のような勇気ある行動で社会に大きな影響を与えてきた人物に「シビル・カレッジ賞」を授与している。同協会はスウェーデンとユダヤ人のコミュニティのメンバーで構成され2013年に設立、以前から続くラウル・ワレンバーグ・デーを引き継いでいる。
協会サイト:https://www.wsccs.ca/
(取材 三島直美)