また会場となった日系センターのロビーでは、BC州指圧協会のチャリティ指圧委員会有志による指圧サービスのほか、Japan Love Projectとセーブ福島アニマルズによる写真展、サイレントオークションやチャリティTシャツ販売も開催され、多くの人がコンサート開場前のひと時を楽しんだ。

ほぼ満席となったコンサート
ロビーで行われた友愛会琉球太鼓による勇壮な演舞に引き続き、開場となったホールには次々と観客が入場、開演前には用意された座席はほぼ満席となった。
コンサート冒頭、参加者全員で黙祷を捧げて震災の犠牲者を悼んだ。続いて挨拶に立った伊藤秀樹総領事は、BC-JERFによる昨年4月のクィーンエリザベス劇場での成功裏に終わったコンサートに触れながら、今回のコンサートを実現させた関係者への感謝の言葉を述べた。またこれからは被災地での精神的な側面、特に親しい人を失った子供たちの心のケアといった、より困難な問題にも対処していかなければならず、引き続きカナダからの温かい心の支援の継続を呼びかけた。

心に響く演奏の数々
最初の演奏はゴスペルコーラスのJaVan。若い澄んだ歌声で坂本九の名曲「上を向いて歩こう」などを歌い上げた。続いて登場したさくらシンガーズは、宮城や福島地方の民謡などを披露。そろいの青い着物が風情を添えていた。
平野弥生さんと小西千恵子さんのパフォーマンスでは、親しい人を失い、深い悲しみに打ちひしがれている震災直後の情景から始まり、やがて人々の支えで再び自らの足で立ち上がろうとする現地の人々の姿を、小西さんのフルートの伴奏とともに四部構成の短い劇で平野さんが表現。続いて、赤いドレスのカトレアコーラスが春と希望をテーマにした曲を披露。
休憩をはさんで後半最初は、松本香壽恵さん、成谷百合子さん、山城猛夫さん、山本実さんによる琴と尺八の演奏で「北海民謡調」。ソーラン節と追分節のメロディーが取り入られた、北国を彷彿とさせるこの曲に、会場は静かに耳を傾けていた。

黄色い水仙、そして東北スマイル
続いて、黄色い水仙の花束を抱いて登壇したのは、特別ゲストのリンダ・オオハマさん。映画監督でもあるオオハマさんは、震災直後から精力的に支援活動に協力、被災地へも足を運んでいる。彼女は被災地の石巻市を7月に訪れた際、津波で何もかもが流されて変わり果ててしまった風景の中に、一群の水仙が咲いているのを見つけた話を披露。本来なら春に咲くこの花が、津波の影響を被りながらも、こうして見事に花を咲かせているのを見て、彼女は生命というものはなんて強靭で、また美しいのだろうと胸を打たれたと語った。
また被災地で出会った人とのエピソードを紹介しながら、オオハマさんが「東北スマイル」と名付けた、単に来訪者を迎えるといった礼儀的なものではない、心の底から迎え入れてくれる笑顔が、被災地のどこでも自分を迎えてくれたことを紹介。被災地の人々は、彼らなりのできる範囲で頑張っている、でもできないこと、助けを必要としていることもいっぱいあり、私たちのどんな小さな支援も必ず彼らの役に立つと、多くの人の継続した支援の必要性を訴えた。
続いては3人組のバンド、BAGGY BOOTZの演奏。心の奥底からの叫びを歌い上げるようなブルースの演奏に大きな拍手が送られた。
最後はちび太鼓の元気な演奏。壇上に置かれた大小さまざまな太鼓を、楽しそうに代わる代わる演奏する子どもたちの笑顔が、聞く者の心を晴れやかなものにしていった。

被災地の様子を伝える写真展も同時開催
ーJapan Love Projectによる写真展:365days
Japan Love Projectは、バンクーバーの学生を中心とした若者たちが震災のニュースを受け「何か自分たちにもできることがあるはず」という思いから立ち上げられたプロジェクト。BC-JERFの全面協力の下、2011年末までの街頭募金活動やチャリティーイベントなどで約30万ドル以上の義援金を集め、カナダ赤十字社を介して被災地へ寄付してきた。
震災から一年、人々の関心が日を追うごとに薄れていくなか、今回彼らは被災者やボランティアが撮影した写真、映像、現地のコメントなどを通じて、その現状や復興の経緯などを今一度伝える写真展を企画した。この出来事を風化させないために、そして完全なる復興には更なる時間と支援が必要な事を訴えるために。
当日は多くの人が訪れ展示された写真や動画の上映に見入っていた。写真の感想を聞くと「1年経ったとは全然思えない。復興にこの先何年かかっていくのだろうと正直感じました。これからも継続的な支援を心がけようと思っていたところです」「変わり果てた情景にとても心が痛みます。でもその風景の中にも、よく見ると笑顔の人たちが写っているのには感動しました」といったコメントが返ってきた。


動物たちのことも忘れないで!
セーブ福島アニマルズによる写真展
風化させてはいけないどころか、解決もされていない、人々に知られてもいない問題のひとつに、福島原発20キロ圏内に置き去りにされた動物たちの現状がある。
原発事故発生時、住民たちは連れて行くことが許されなかった動物たちを、多分2〜3日の別れと思い、泣く泣く置き去りにした。しかしその後20キロ圏内は立ち入り禁止にされ、何万匹という動物たちの多くは餓死を余儀なくされてしまった。
その後、自らの判断で圏内に入った動物愛護の人たちの決死の努力で、何千匹かの動物たちは厳しい東北の冬の寒さを乗り切ることができた。そんな動物愛護団体や個人の要請にもかかわらず、政府の対応は遅かった。厳しい制限を付けながらも、10団体に3週間の圏内立ち入り動物保護の許可が出たのは、ようやく去年の12月になってからのこと。それでも330匹の犬猫を保護することができた。
その団体のひとつ「セーブ福島アニマルズ」のメンバーで、今回の写真展を企画した島田友子さんは「私たちのメンバーも何回か圏内立ち入りをし、犬猫を保護いたしました。ですが一度解き放たれ、人間不信になっている犬猫の保護は予想以上に難しく、まだ何千匹かの動物たちが圏内に残されております」と、その現状を説明。
「近い将来、政府は原発の周囲3キロ圏位を封鎖する計画を立てており、当然その中で生きている動物たちは見殺しにする予定のようです。未曾有の災害であり、動物たちの犠牲は仕方がないという方々もいらっしゃいますが、動物たちも尊い命にはかわりなく、それに家族の一員であり、また私たち人間の食を支えてきた家畜たちであるのです。当初は混乱のなかで仕方なかったとしても、政府がほんの少し動いたのは、9カ月も経ってからでした。私達セーブ福島アニマルズは最後の一匹まで保護できるように、またこのような残酷なことが二度と起きないように、災害時に於ける動物避難、救援の法律が作られるよう、精一杯の努力を続けてゆく所存です。詳しくはウエブサイトwww.savefukushimaanimals.com をご覧になり、署名と寄付にご協力下さい」
展示された動物たちの写真に、会場を訪れた人みなが足を止め、見入っていた。
なお、コンサートの収益は約1万千ドルとなった。これは全額地球のステージとあしなが育英会を通じ、被災地の子供を直接支援(心のケアや将来の教育支援)するために寄付される。

 

(取材 平野直樹)

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