2018年2月8日 第6号

バンクーバー市内UBCロブソンスクエアで1月31日、企友会(バンクーバー日系ビジネス協会)の年次総会およびバンクーバービジネス懇話会と共催での新春懇談会が開催された。約60人を迎えた懇談会では、名刺交換会に続いて二つの講演が行われた。以下、密度の濃い講演内容の一部を紹介する。

 

BC州の経済の柱である林業の現在を語る石川満さん

 

バンクーバービジネス懇話会副会長
双日カナダ会社副社長
石川満さん
『日本におけるカナダ林産業のポジション』

 双日株式会社は、ニチメン株式会社と日商岩井の合併で2004年に誕生した企業。ニチメン入社以来、約30年間日本と北米で林産業界での仕事に携わってきた石川さんが、カナダと日本の林産業の現在の状況を次のように語った。

 ブリティッシュ・コロンビア(BC)州に生育する主な樹種は、ダグラスファー(米マツ)、ウエスタンヘムロック(米ツガ)、レッドシダー(米杉) 、ロッジポールパインなどの針葉樹。カナダから輸出される木材はアメリカ、中国、日本、韓国に対してトップシェアを持つ。それを可能にしているのは、BC州政府が、適正な伐採許可料および森林管理の義務と引き換えに木材会社に伐採を許可していること。また低い税率、規制の簡素化などの産業振興策を取ってビジネス環境を整えていることが理由として挙げられる。

 日本では、かつて95パーセントだった木材国内自給率が、2002年には18.8パーセントまで下がった。そこで現在、日本政府は自給率50パーセントを目指して、住宅・非住宅の両方に対して国産材の使用を促す各種政策を施行中である。

 

在バンクーバー日本国総領事館 岡井朝子総領事
『解説:TPP11とカナダ』

 本講演を引き受けての準備中、岡井総領事をハラハラさせていたのがカナダ政府の意向。APEC首脳会合(2017年11月、開催地ベトナム・ダナン)の機会に行われた、包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ(TPP11)の大筋合意を首脳レベルで確認する予定だった場に、カナダのトルドー首相が現れず、会合は突如中止に。日本側に一時対カナダ不信が生まれたが、その後カナダの懸案事項であった自国産のコンテンツ保護の「文化例外」などを盛り込めたことから、今年1月23日、トルドー首相がTPP11に署名の意向を表明。「本講演でTPP11発効による日加間の経済効果が語れるようになった」と、岡井総領事は安堵の表情で講演を始めた。

 講演内容は、TPP11とは、TPP11による経済効果、日加間で予想される変化、日本のTPP関連施策、さらには未来投資戦略2017にまで及んだ。膨大な内容の中から、日加間での経済効果に関する内容を取り上げてみたい。

 カナダから日本への輸出に関しては、菜種油、ドライクランベリー、ワイン、サーモン、まぐろなど農林水産品に対する日本の関税の即時ないし段階的完全撤廃が、カナダ企業にとって大きな利益となる予測がある。カナダ政府の分析によれば、TPP発効によりカナダに経済効果が見込まれる43億米ドルの大半は、日本市場へのアクセスによるものとみられている。

 他方、日本からカナダに輸出する品目で、TPP11発効により恩恵を受けるものとして注目されるものには、乗用車(TPP11発効5年目にはカナダの関税が撤廃)、牛肉(現行26パーセントの関税が6年目に撤廃)などのほか、即時関税撤廃となるものには、自動車部品、清酒、焼酎、梨などがある。

 日本ではTPP11発効により、国内総生産(GDP)が7.8兆円増加と試算されている。日本政府は輸出増加を目指して、中小企業の輸出促進や国内産業の競争力強化のための施策を数々導入中だ。

 講演では、日本の中小企業が政府団体の支援を受け、すでに自由貿易協定を結んでいる国に販売網を広げ、大きな利益増を生んでいる事例や、AIなどの革新的技術の導入を武器とした日本の未来成長戦略など、カナダの日系企業にとっても事業拡大発展のヒントとなる各種情報が紹介された。参加者に配布された全55ページの貴重な資料に触れながらの講演に「岡井総領事から、私たちの事業への支援の気持ちが強く感じられた」と、参加者から感激の声が上がっていた。

(取材 平野香利)

 

TPP11と関連内容から参加者に商機をつかんでもらえたらと熱心に解説を行った岡井朝子総領事

 

 

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