2017年6月15日 第24号

7月2日、バンクーバー・ダウンタウンで開催されるカナダデーパレードにおいて海外では初めてとなる湘南神輿が参加する。そのお披露目を控えて晩香坡櫻會(バンクーバーさくらかい:以下櫻會)の代表清野健二さんと、神輿を制作・奉納した神輿職人の中里康則さんに話を聞いた。

 

バンクーバーにやってくる湘南神輿

 

晩香坡櫻會結成と神輿完成まで

 湘南神輿は、一般的には「相州神輿」「どっこい神輿」と呼ばれ、よく知られる江戸前神輿とは各パーツやデザインも違うが、一番の魅力はその担ぎ方にある。神輿の台輪(だいわ)部分に取りつけられた鐶(かん)という金具を叩きながら、甚句という民謡を唄い、担ぎ手皆で合いの手を入れるというリズミカルな担ぎ方をするのが湘南神輿の特徴だ。

 「カナダで誰もやったことのない湘南神輿を紹介したいとの思いで、神輿制作を決意したのですが、一番の問題は資金でした。神輿はプロの職人に制作を依頼すると数百万円以上の費用がかかります。寄付等もお願いしましたが、神輿の金額を言うと、ほとんどの方から『無理だろう』と言われました。加えて、海外での神輿は単なるパフォーマンスと思われている部分が大きく、神輿を制作することへの理解がなかなか得られませんでした。しかし『櫻會の思いは絶対に分かってもらえる』と応援してくれる方もいて、絶対に実現したいと思いました。『大事なのは心であって形ではない、お金がないなら笑われてもいいから自分で神輿を作ろう!』と、恥を忍んで中里さんに相談しました。すると中里さんは、昨年の講演でお世話になったバンクーバーの皆さんのために自分の神輿を奉納させてほしいと言ってくれたのです。日本各地から注文がある忙しいプロの職人ですからそれはお受けできないと、お断りしましたが、中里さんの熱意に逆に心を打たれ、その申し出をありがたく受けることにしました」と清野さんは話す。

 この話が中里さんの地元湘南を中心に広まりはじめ、タウン誌やテレビ番組で「友好の神輿」と紹介され人々の知るところとなり、それに共感した人たちなどが寄付を申し出てくれるなど、神輿を通した人々の輪が広がり始めている。

 神社のないバンクーバーでは本来の意味での神輿になり得ないのではないかという意見もあり、清野さんはそのことでも悩んでいた。しかし、ある人から「神道では全ての現象やモノには神が宿るという考え方をします。貴方が大切に思うモノや気持ちは神になり得るのです」と言われ、何かが開けたような気がしたという。

 中里さんは、ここにも配慮をしてくれ、神輿の芯柱にお社を設け松尾大神のお札を納めてくれたそうだ。松尾大神は京都嵐山の松尾大社の分社の一つである。「制作前の材料のお清めに始まり、完成後の報告と共に神輿が多くの方々に幸をもたらすように神主様にご祈祷をしていただきましたので、この神輿は神様に護っていただいています」と清野さん。中里さんや応援してくれた日本とカナダの方々の思いに応えるため、この神輿を守り、盛り立てていきたいという。神輿は6月下旬には到着予定だそうだ。

 

神輿職人 中里康則さん インタビュー

ー晩香坡櫻會へお神輿を奉納されることになった経緯は?

 昨年バンクーバーで講演をした際に櫻會の方々にお会いして、バンクーバーで神輿を担ぎたいという強い気持ちに心打たれたんですね。また、海の近くに行ってみて自分が住んでいる茅ケ崎にすごく似ている感じだなと思いました。こういうところでお神輿担げたらいいなって率直に思ったんです。清野さんから資金が思うように集まらず、今回はちょっと厳しいということを聞いて、それだったら自分のお神輿で良ければ寄贈したいと伝えました。たくさん彫刻がついているとか、きらびやかなお神輿はできないけど、自分にできる限り精一杯のことはさせてもらおうと思って。カナダのバンクーバーで、自分が作ったお神輿が担がれるということのうれしさは、なにものにも代えがたく思いました。

ー実は今年には間に合わないのではと思っていました。

 それこそ徹夜ですよ(笑)。ひとつお神輿を作るとなると最低半年をみているんです。櫻會のお神輿も進めつつ、他のお神輿の仕事や提灯を描くこともしていたので、かなりハードでした。毎日のように徹夜でしたよね。それでも、お神輿が好きでたまらない自分にとって、カナダで自分が作ったお神輿が担がれるなんて夢のよう。日本全国いろんなスタイルのお神輿がある中、この相州神輿と湘南の地域の自分たちの担ぎ方をリスペクトしてくれていることに本当にうれしい気持ちでいっぱいですね。

ー制作中もそういう気持ちを込めて、でしょうか。

 日本語でいうところの全身全霊を込めてというところですね。徹夜なんてしても辛くないんですよ。みなさんの喜んでもらってる笑顔が浮かんできたし、自分も(カナダデー)パレードで参加して担ぐんですけど、そういうことができるのが、この上ない幸せというか。

 今回、輸出にあたっても自分の仲間が梱包作業に携わってくれて。人と人とのつながり、仲間の素晴らしさとか身に染みて感じましたね。カナダのほうでも、櫻會の方たちがパレードに参加するための準備でいろいろとやってくださっているし、多くの人の力が支えているということを感じます。

ー茅ケ崎の方々もご協力くださったと聞いてます。

 この度、カナダに奉納するお神輿を作っているということを聞いて、寄付してくれた方も多数いました。また、茅ケ崎青年会議所という団体の人たちは、資金を集めるためのクラウドファンディングをしてくれると言ってくれて。自分1人でやろうとはもちろん思っていたんですけど、こうして手助けしてくれる人がいるのはありがたいですね。茅ケ崎のものをカナダにということなら自分たちも助けるよと言ってくれる、その気持ちがうれしいです。

ー当日は中里さんも一緒に担がれますね。

 息子が今、大阪で木彫刻の修業をしていまして、日曜日しか休みがないんです。お神輿を寄贈するため僕がすごく忙しくしているのを知って、土曜の夜に新幹線に乗ってきて夜通し手伝ってくれ、日曜日の夜また大阪に帰るということをしてくれたんです。その息子も、カナダに担ぎに行きたいということで、親方に頼んで特別にお休みをもらうことにしたんです。今回、母、兄、姉、息子と一緒にカナダに行きます。他にも担ぎ手として何人か日本から来てくれることになっています。

ーバンクーバーでは初めての相州神輿ということですね。

 というより、世界初ですね。ハワイに神輿を持っていって担いだことはありますが、海外の地に寄贈するというのは初めてなんです。

ー新報読者にメッセージをお願いします。

 バンクーバーでもお神輿に関心ある方がいっぱいいると思うんです。今回、一緒に楽しくカナダの150 周年を祝いたいので、1 人でも多くの参加を待っています。お神輿のこととか知らない人でも全然かまわないし、初心者の方も大歓迎なので、ぜひご参加ください。 カナダデーに向けて6月24 日は甚句の練習と説明会、7月1日は、バンクーバーのサンセットビーチで予行練習と神輿譲渡式を行う予定。

問い合わせは、 担当 Arisa:This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.、 またはThis email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it. まで。 

(取材 大島 多紀子 / 写真提供 晩香坡櫻會)

 

長寿の象徴である鶴の彫刻が入っている。バンクーバーと櫻會が末永く羽ばたいて、発展してくれるようにとの思いを込めてつけられた

 

神輿の芯柱に特別に設けられたお社。中にはお札が祀られている

 

櫻會の半纏も中里さんがデザインした(右端)

 

松尾大神でのご祈祷の様子(5 月14 日)

 

松尾大神でのご祈祷(5 月14 日)。神輿職人の中里康則さん(前列中央)。櫻會からは生田目謙さんが出席(前列右から2 人目)

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。