2017年4月27日 第17号
4月12日、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市の日系文化センター・博物館で、「これで貴方もワイン通?」というタイトルのコスモス・セミナーが開催された。講師は岡井知明さん。
ワイン好きが高じ、東京と大阪で数軒のワインレストランの経営に参画し、多くのソムリエに活躍の場を提供してきた。同時に自身の舌も年月を重ね熟成させてきたその人が、「ワインのうんちくを語りながら、プロをもドキリとさせるコツ」を紹介した。今回のセミナー受講者は、68名。興味津々の話、笑いに誘われながら、ワインをさらに楽しめるコツ満載のセミナーだった。
講演中の岡井講師
健康と資産形成にワインを
「私は、30年ほど前、大阪のあるレストランで一杯の赤ワインに出会ったのがきっかけで、とりこになってしまいました。それまでは、ビールか、日本酒、焼酎などで、赤ワインは甘いという固定概念で敬遠していました。ところが、そのレストランの支配人から『ともかくお試しください』と出された赤ワインを口にしたとき、印象は一変しました。それ以来、ワインの知識を仕入れながら、さまざまなワインをレストランや自宅でも味わってきました。自画自賛ですが、わたくし69歳になりますが、健康ですし、知人からは若い、といわれます。赤ワインのポリフェノールのおかげでしょうか」と、照れ笑い。「凝りだすと、ワインはケース買いをするようになるものなんです。すべてを飲みきるわけではなく、新しいものをまた買う、在庫が増える。実は、これが良い資産づくりになるのです。ワインは値下がりすることがほとんどなく、数倍に値上がりすることもままあります。まあ、値上がりが期待できそうもない銘柄のものは、飲めばいい。ここが株などとは大違い。大暴落で、紙くずに、なんてことはないわけです」。うまい! と思わず膝をたたきたくなるような枕話から講座が始まった。
ワインの世界は奥が深い
ワインに関する書籍などもさまざま書店にならんでいる。『Wine Bible』といったタイトルの本などは、厚さ5センチメートルはある。もちろん、入門書も数多く、ウェブサイトでもさまざま紹介されている。しかし、今ひとつ、読み込むまでには至らない。そのあたりの初心者心理を察し、コスモス・セミナー主宰の大河内南穂子さんが企画した今回のテーマ。「ワインの基本とされるフランスワインの解説、そして自分好みのワインの見つけ方、楽しい飲み方を紹介したい」と、岡井知明さんに講師を依頼し実現したのであった。
「ワインの世界は、確かに奥深いものがありますが、とりあえず、これだけ覚えておけば、『なんちゃってワイン通』(笑)を自称できるポイントをご説明しましよう」と本題に入っていった。その中からピックアップし、要約して再現したい。
これさえ覚えておけば 貴方もワイン通?
●5大シャトー:フランスのボルドー・メドック地区での格付けで、第一級の称号を与えられた5つのシャトー(ワイナリー)のこと。
●シンデレラ・ワイン:無名のワインが、ブラインド(目隠し)テストなどで高評価され、人気、価格が急上昇したワインのこと。「シャトールパン」、「ペトリス」といった銘柄が有名。歴史の浅いカリフォルニア・ワインなどから出現することもある。
●モノポール:単一の畑で収穫されたブドウのこと。希少価値が高い。
●テロワール:地質、水はけ、傾斜、気温差、標高、地形など、ブドウが育つ畑の自然環境要因のこと。
●クリマ:ブドウの樹の成長に大きな影響を与える気候のこと。ブルゴーニュ地方では、同じ畑の中でも特定の区域を指すことがある。
●ヴイエイユ・ヴィーニュ:古いブドウの樹のこと。
●パーカーポイント:ワイン評論家のロバート・パーカー氏がつけるワインの点数。価格に関係なく、純粋にワインの味わい、香りなどで評価。100点満点で表記され、指標のひとつとして、ひろく利用されている。その情報誌は英語、日本語でも発行されている。
●バキュバン:ワインボトルに飲み残しがあるときに使う「ゴム栓」。赤ワインは、コルクの栓を抜いて飲んだあと、このバキュバンで栓をし、翌日飲むと、さらにおいしくなることもある。一度空気に触れるためという。
●デキャンタージュ:赤ワインをボトルから「デキャンタ」という器に移し替えることをいう。その効用は、ひとつは、ワインを空気に触れさせ目覚めさせること、そして、ボトルの底に残る澱(オリ)を除くために行う。
●リーデル:ワイングラスの老舗メーカーでブドウの品種ごとに形が異なる。底部の膨らみがやや小さく、細身のスマートなデザインのグラスが、ボルドータイプ。もう一つが、底部がふっくらとしたブルゴーニュタイプ。ちなみに、ワインは、グラスに100ミリリットルほど注ぎ、香りと同時に飲む。また、ワインのボトルもいかり肩のデザインがボルドータイプで、なで肩がブルゴーニュタイプとか、数種類ある。
●ラギオール:ワインボトルの栓を抜くソムリエナイフの最高級品。高級レストランなどでソムリエさんが使っているのを見かけたら「ラギオールですか?」と尋ねてみるといい。多分、扱いが変わるだろう。
●ブショネ:開けたワインがたまにイヤなコルク臭がすることがある。品質劣化の証拠で、それをブショネという。自宅飲みのときにコルク栓の臭いを嗅いで慣れておくとよい。
●パニエ:保存していたときと同じ角度で、ワインボトルを寝かせたままグラスに注ぐためのカゴ。ワインバスケットともいう。
●セパージュ:ブドウの品種のこと。ラベルに表示されているので、いろいろ飲み比べて、自分の好きな品種を探すのも楽しみのひとつだ。但し高級フランスワインには表示されていない。
●オリ(澱):ワインボトルの底に沈殿している物。これは、赤ワインに含まれるタンパク質色素で、年代物の長く熟成されたものに見られる沈殿物。飲んでも人体に影響はないが、ワインを口に含んだときに風味が損なわれることがある。それを避けるため、デキャンタージュを使用する。
テイスティングの方法
「通ぶり」を試すときが、このテイスティングだと思う。岡井講師は、次のように教えた。 「レストランなどでは、オーダーした人にテイスティングがすすめられます。エチケットを確認し、緊張せず、まず、抜かれたコルク栓をゆっくり手に取り、横にして臭いを嗅ぐ。次に、グラスに注がれたワインの色を見る。そしてグラスを揺らした後、グラス上部を鼻の位置に持ってきてワインの香りを確かめ、口に含んで味を確かめる。この手順をゆっくり自信を持って行えば、りっぱな『通』です。注意点は、グラスを揺らすとき、こぼさないように。自宅でワイングラスに水を入れ、何度も練習しておくといいでしょう」。これは良いことを聞いた。早速練習したい。
良質ワインと価格は 正比例する
「おいしいワインは、高価そう」と、腰が引けてしまうのが常だが、岡井講師が目安を教えてくれた。「ワインの場合おいしさと価格は正比例します。リカーショップで売っている20ドルぐらいのものであれば、まあ大丈夫。50〜80ドルなら、かなり大丈夫。80〜100ドルなら間違いない味です。100〜200ドルなら、すごくおいしいワインです。これ以上のワインは、味が良いというより希少性の問題ですね。でも、200ドルぐらいのものを、一生に一度は味わってみられてはいかがでしょう。高価なワインは、何人かで買って皆で試飲してみるのもいいですね」。
会場から、質問。「バンクーバーで生活していて気軽に手に入る、まず間違いないとおすすめのワインはなんでしょうか?」、「カリフォルニアやワシントン、オレゴンのワインですね。銘柄はいろいろありますが、20〜30ドルです」。
コスモス・セミナー主宰の大河内南穂子さんから岡井講師にリクエスト。「このワイン講座の続編をぜひ、お願いしたいのですが…。(会場からもアンコールの拍手)、では、次回はどこかレストランなどで、ブラインド・テイスティングのワイン会というのはいかがでしょう、高級ワインを皆さんで少しずつ試す、というのもいいかもしれません」。拍手大喝采。
(取材 笹川 守)
講師プロフィール 岡井知明(おかいともあき)
大阪府出身。30年以上前からワインにはまり、それが高じてワインレストラン経営に参画。大阪北新地や東京銀座に出店し、多数のシェフやソムリエに活躍の場を提供。10年前に事業を売却。在バンクーバー日本国総領事館岡井朝子総領事夫君。岡井総領事バンクーバー赴任に伴い、昨年来加。総領事と共に日本文化紹介や日系社会の発展に貢献している。
熱心にメモをとりながら、笑いありの会場風景