2017年3月16日 第11号
在バンクーバー日本国総領事公邸で3月13日、ソプラノ歌手木下美穂子さんの歓迎会が開かれた。木下さんは3月10日、バンクーバーで開催された『岡部守弘記念コンサート』でバンクーバー・メトロポリタン・オーケストラと共演、翌日はウイスラーの催しで歌唱を披露した。イベントに協力した在バンクーバー日本国総領事館では、今回のコンサートのオーガナイザーやスポンサー、音楽関係者を招き、木下さんを歓迎した。
木下さんと新屋さんとは地元九州での活動で接点があったという
砂山の砂に―日本の情景が浮かび上がる歌唱
会の冒頭、岡井朝子在バンクーバー日本国総領事から「木下さんはバンクーバーとウィスラーで何百人もの聴衆を魅了しました。その木下さんを公邸にお迎えすることは大変光栄です」と、木下さんの活躍ぶりの紹介や歓迎の言葉が述べられた。続いて木下さんが登場。バンクーバー在住のピアニスト新屋宗一さんの伴奏のもと、石川啄木作詞の曲『初恋』をオーソドックスな歌唱スタイルで朗朗と独唱した。その後は参加者との交流の時間となった。
新たな境地へ
木下さんに歌唱中の感覚について尋ねると「曲や役に入り込むことは大事ですが、100パーセント入りきってしまうと周りが見えなくなります。ですので、50パーセントはオーケストラの音楽など、周りに気を向けている感覚が大事だと思っています」。昨年、二期会で行ったプッチーニのオペラ『トスカ』でタイトルロールを演じて以来、重厚な楽曲の歌唱依頼が立て続けに入ってきている木下さん。それは新たな境地の開拓でもあり、慎重に丁寧に歌唱を仕上げていきたいと意欲に燃えている。「日々目指しているのは、より深く聞き手に届くようにすることです」。それは感情的な面というよりは技術面からのアプローチになるという。そのため現在の住まいのテキサス州ヒューストンから、ニューヨーク在住の指導者のもとへと度々足を運んでいる。
世界的な活躍を続けてきた木下さんの印象深い出来事の一つは、急遽依頼されたブルガリアでのオペラ公演。口頭で簡単な説明だけを受け、リハーサルなしで舞台へ。本番の舞台の上で、共演者たちにあっちへこっちへとイタリア語で指示をされながら動き、歌唱を行ったという。「もう、そのステージに上がるときは緊張などというものを超えていましたね」。力強く語る言葉の後ろに、木下さんを支える世界での数々の経験と地道な努力が見える思いだった。
ステージ前の調整は柔軟に
歓迎会では、演奏会で共演したオーケストラのメンバーや当地のパフォーマーや音楽家たちが、次々と木下さんに挨拶していく。その一人ひとりに丁寧に応じながら、記者の最後の質問に答えてくれた。「(ステージの前の自己管理や飲食は、の問いに)最近は朝や夜にヨガをするのが落ち着くのに役立っています。(ステージ前に行う自分での決め事など)特にこだわらないようにしています。食べるのは、おにぎりとバナナですね」と語り、オぺラ『蝶々夫人』の出演で世界的地位を確立し、『トスカ』で、さらなる飛躍を遂げた歌手は、にっこりと微笑んだ。
(取材 平野 香利)
写真左から木下美穂子さん、新屋宗一さん、岡井朝子総領事
『初恋』を深みのある美しい声で歌い上げた